表題番号:1999A-851 日付:2002/02/25
研究課題「高齢化の進展、税制や年金制度の改革が、経済成長率に与える影響の理論的研究」
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学部 助教授 片岡 孝夫
研究成果概要
 計画書にも記したように、本研究は解析可能なモデルを作り、そこから一定の定性的な性質を導出する理論的作業と、そのモデルを数値化してコンピューターシミュレーションを行い、定量的な性質を導き出す定量的な作業の二段階になっている。現状では、第二段階の作業が終了していないため、最終的な研究成果をまとめる段階には至ってないが、現在まで進展を簡単に記しておく。
 まず、理論的なフレームワークを造る作業は、さほど困難なものではなかった。これはバローとサラ・イ・マーチンによる中間投入物のバラエティーを生産関数に明示的に取り入れることによって生まれる内的な成長プロセスを、ダイヤモンド等による生産活動を考慮した世代交代モデルに組み込むことによって得られる。
 このモデルの定性的な分析については一応の結論が得られている。たとえば、社会の高齢化がもたらす影響については、(1)単純な人口成長率の低下は、新しい生産技術が利用できる労働量の減少を意味する為、技術革新のインセンティブを弱め、経済成長率を鈍化させる可能性が高い。しかし、(2)人口成長率の低下とともに定年の年齢が高まる、高齢者の再雇用が一般化する、などの社会的な適応が起これば、若年者の貯蓄意欲は下がり、経済成長率はかえって鈍化する。(3)年金制度が縮小されることによる高齢者の損失の一部は、民間貯蓄を刺激することを通して経済成長を促し、長期的には回復される。
 ただし、これらの性質は、ある意味で当然であり、新鮮味に欠ける、という問題がある。現在では、これとは別のフレームワークも試しているが、その中で生まれた着想として、政府の経済政策に対する民間の信頼度が政策効果に与える影響の分析を取り入れたいと考えるようになった。これに対する分析は十分に進んではいないが、2000年度中には最終的な形にまとめ公表したい。