表題番号:1999A-841 日付:2002/02/25
研究課題言語の「音変化」が、文法・語彙など言語の他分野に与える影響(歴史言語学的考察)
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 専任講師 吉田 雅之
研究成果概要
 英語史の流れのなかで中英語は発音の変化が激しかった時期で、それは写本間の多種多様な綴りの中に反映されている。「綴り」と「発音」の関係は必ずしも1対1とは限らず、慣用に従って実際の発音とは異なる綴りが使用されていた可能性も否定できない、同一作品内の綴りのゆれを子細に検討することにより、発音変化の手がかり、さらには文法や意味変化の手がかりを得ることも可能となる。
 筆者は以前中英語の二重母音の綴りを調べ、解決されたとは到底言えない二重母音の発音の変遷について、通説とは若干異なる実態を示唆したことがあった。その後、発音だけでなく語形成との関連で写本間の異同を検討したこともあったが、常に中英語の持つ「語形・綴り字」の多様性を利用し、またそれに助けられて考察を進めてきた面がある。今回もその例に倣い、14世紀後半にウィクリフ派の訳した聖書の一部を用いて、文法との関連で語形の検討を行なうことにした。
 二重母音の問題と並んで中英語時代の実態を把握しづらい問題に「 -ing 形」がある。古英語時代にさかのぼると二種類の異なる語形を持つ -ing 形は中英語に至って同一の語形となり、それに伴って動名詞と現在分詞は形のうえで見分けがつかなくなる。このたび資料として用いたテキストにおいて、わずかだが語形のうえで区別している状況を確認することができた。同一作品の写本間でこの書き分けをしているのはごく一部である。発音上、区別がつかなくなりつつある時期の貴重な事例を紹介し、相異なる二品詞がどのようにして融合したか、Curme を初めとした両者の区分上の論争解決に少しでも資することができれば幸いである。