表題番号:1999A-840 日付:2002/02/25
研究課題宋代の文学とメディア―北宋後期を中心として―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 専任講師 内山 精也
研究成果概要
 標記の課題について、本年度は特に北宋後期を代表する詩人・蘇軾を中心に研究を進めた。蘇軾は、元豊二年(1079)に勃発した筆禍事件、烏台詩案によって投獄され、流罪に処せられるが、この事件に民間で印刷された彼の詩集が証拠物件として提出され、重要な役割を荷っている事実に着目し、当時の印刷メディアと文学の関係について調査を進めた。
 その研究成果の一部を、2000年3月30日、上海にて開催された、「宋代文学国際研討会」の大会で発表した。発表のタイトルは「蘇軾文学与伝播媒介―試論同時代文学与印刷媒体之邂逅―」。発表内容は、北宋中期までの印刷メディアと文人の関わりをまとめた後で、出版界が生前の一線で活躍している作家の創出した同時代文学を印刷対象とし始めた最初期の事例として、蘇軾の詩集が挙げられること。不幸にしてそれが筆禍事件を招いたことによって、作家の創作にも悪しき影響を及ぼしたことが予想されるが、蘇軾はそういう消極的側面ばかりではなく、印刷メディアの積極的利点をも意識しつつ、事件後に創作活動を展開していたことを実例を引きつつ論証した。
 なお、この学会は中国における宋代文学研究の全国組織として設立され、今年が第一回の創立大会であり、中国内外の主要な研究者が参集したが、彼らの反応も概ね良好であったことをここに付言しておく。
 向こう一年の間に、この学会で発表した成果を踏まえ、メディア論的観点から烏台詩案について私見をまとめるつもりである。