表題番号:1999A-829 日付:2002/02/25
研究課題紀ノ川流域における荘園地域の総合的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 助手 高木 徳郎
研究成果概要
 本研究は、従来単独荘園ごとに行われていた中世荘園の現地調査の限界点を克服し、近世史・地理学・民俗学的な視点と方法を導入しながら、地域の持つ歴史的個性の全体像を把握しようという試みである。そのために、大河川の流域という、荘園領主の支配の枠組みを超えた、民衆の生産・流通活動に即した地域概念を設定し、以下の2点に留意して現地調査・研究を行った。①紀ノ川(和歌山県北部)流域に所在するいくつかの荘園地域の現地調査を行い、地域的な特性を自然地理・歴史民俗的な視点から比較検討すること。②単独荘園(紀伊国相賀荘)の現地調査を行う中で、その荘園の荘域の周辺部の調査を積極的に行い、荘域を超えた民衆の活動、信仰のあり方について調査を行った。調査はまだ中途であるが、おおよそ以下のような成果を得ることができた。①山間部の荘園(紀伊国鞆淵荘)では、水田・集落が村ごとに隔絶して存在しているが、村と村をつなぐ山間の道を使った交流が活発であり、山林用益にあたっても荘園としてまとまった共有林地をもつなど、かえって荘園の枠組みが強固に意識される。②平野から中山間地を含む荘園(紀伊国相賀荘)では、水利や山林利用などをめぐって隣村との共同がみられるが、それは荘域全体を包摂するものではなく、むしろ村が利用や管理の主体となる。③②と関わって、山林の利用などは、荘域を超えた村同士の共同利用がみられ、山林資源の利用と保全をめぐって、さまざまな慣習法・成文法が作られていった。そうした法は荘園間の相論などを通じて形成されてきたこと。④信仰面では、荘域を超えた村同士で共同で墓地を営んでいる事例がみられた。またその墓地の石造物調査により、学界未紹介の15~16世紀の銘文を記した一石五輪塔を多数見出し得た。⑤現在に残る寺院や神社などの調査を行い、民俗的な行事や祭礼などについての聞き取り調査を行った。⑥水利慣行や水田の水がかりについての聞き取り調査、および現地での確認踏査を行い、景観復元図の基礎となる資料を作成した。