表題番号:1999A-817 日付:2002/02/25
研究課題古代エジプト新王国第18王朝時代のネクロポリス・テーベの編年学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 助教授 近藤 二郎
研究成果概要
 エジプト新王国時代の墓域研究の中で上エジプト第4ノモスに位置するテーベは、特異な位置を占めている。この地区で登録されている415基の岩窟墓の中で、特に新王国第18王朝時代から19王朝時代にかけての時期の岩窟墓が多数存在している。これまで、これら岩窟墓の年代を決定するには、墓内部に残存する壁画に描かれた王名などから時期を決める傾向が強く、全ての墓に王名が記されているわけではなく、時期決定の段階においても非常に不充分な状態であったと言える。また、全ての墓を網羅的に扱った研究も、現状では限られたものであり、そうした点から、まず時期決定のための基本的なデータの蓄積をはかる必要があるとの認識に立って、研究作業を展開していった。1999年度は、特にネクロポリス・テーベにおける岩窟墓の再利用の問題について主として研究を実施した。岩窟墓の再利用といっても、様々な例があることを明らかにし、その中で新王国時代における再利用の例を具体的なケースを取り上げ検証した。新王国時代の岩窟墓の中で、顕著な再利用の例としては、第18王朝のアマルナ時代以前(特にトトメス4世からアメンヘテプ3世時代)の岩窟墓が、アマルナ時代以降(主としてラメセス2世時代)に非常に多く存在していることが判明した。このことは、アマルナ時代という社会の大規模な変革期に、岩窟墓に埋葬するという葬送理念もまた大きく変化したことを示している。
 上記の作業を通じて、先ず現在欠如しているネクロポリス・テーベの岩窟墓群の基礎的なデータ・ベースの作成が急務であるとの結論に達した。そのためには、データ・ベースの確立をするための基礎的なデータ(地形図、報告書、研究論文)の集積も合わせ実施した。今後は、再利用墓の個々の事例をリスト・アップしながら、基本的な編年の確立を実施していきたいと考えている。また、ネクロポリス・テーベに関するデータ・ベースをネット上での公開を視野に入れて作成しているところである。
 篇年学的な研究は、ある意味では地味なものであるが、ネクロポリス・テーベの研究を遂行していく中で不可欠で重要なものであり、1999年度に端緒をつけた第18王朝時代に引き続き、今後も第19王朝、第20王朝と継続して研究を実施していきたい。