表題番号:1999A-811 日付:2002/02/25
研究課題憲法解釈方法論という観点からの、法の科学の適切な概念構成の理論的探究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 助手 江原 勝行
研究成果概要
 本報告書提出者は、憲法学における解釈方法論を研究対象とし、その研究対象に見合う理論的素材を求める為の準拠国としてフランス並びにイタリアを採用しているが、本研究助成費に係る研究成果としては、20世紀初頭から中葉にかけてのイタリアの公法学説、とりわけサンティ・ロマーノの「法秩序体=制度」理論の現代的意義の究明が挙げられる。ロマーノの研究業績は、憲法学に留まらず、行政法学・国際法学等多岐にわたるものであるが、憲法解釈方法論を研究対象とする提出者は、ロマーノの業績の中でも、正当性を有する法の科学は如何なるものであるのかという視点から、主として(憲)法規範生成の契機若しくは憲法法源生成観に関連する部分を採り上げ、緊要性の理論、制度体の理論、法秩序体の多元性の理論という三つの柱立てを獲得しつつ、ロマーノ学説における法並びに国家の一般理論像を提示することができるような本格的検討を行った。それと同時に、彼の時代から現代に至るまでの、主としてイタリアにおける、ロマーノの法理論に対する公法学者及び法哲学者の評価をも網羅的にフォローし、特にロマーノ理論における鍵概念を構成する「法秩序体」のイデオロギー性という一つの有力な懐疑を視野に収めることによって、ロマーノ学説の現代的精緻化が可能とされた。より一般的な観点を以って述べるなら、かかる研究内容は、近代立憲主義の自明性が揺らいだ結果、その代替理論として現代国家の成立期に登場した公法学説の中でも(「説明」に対置されるものとしての)「了解」という視点に馴染む理論こそが、現代の憲法現象における諸問題の解決にとって有益な示唆を提供しうる研究対象として憲法学によって採用されるべきであるという仮説を裏書きし、また、フランスの制度理論とは一線を画するイタリアの制度理論に論及することによって、日本の公法学における制度理論研究に新たな地平を開くことを可能ならしめる為の一寄与である。