表題番号:1999A-801 日付:2002/02/25
研究課題R&D技術者を中心とする人材育成とキャリア形成に関する比較研究:東・東南アジアを中心に
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 白木 三秀
研究成果概要
 アジア諸国では、更なる経済的飛躍、発展のために新たな技術開発が求められている。このためにはR&D技術者の育成と蓄積が不可欠であり、そのための条件づくりが求められる。本特定課題研究では、R&D技術者の育成やキャリア形成がどのようになされているのかを明らかにすることを目的にした。
 幸い、台湾で技術者個人に対しキャリアに関するアンケート調査を実施することができた。調査は、調査票を台湾調査向けに翻訳、若干の調査を行い、国立台湾師範大学洪栄昭教授の全面的な協力を得て実施できた。集計可能な有効票は512票であった。
 原稿執筆は中途であるが、以下のような点が明らかとなっている。第1に、台湾のR&D人材の転職が多いことが分かった。民間公的両部門の転職経験者に共通の最大の理由は、自分の研究テーマをもっと掘り下げたかったからという理由と、会社の将来の方向性に疑問があったからという理由である。ただし前者の理由で転職した人の比率は公的部門の方で高く、後者の理由は民間部門でより高いという若干の相違は認められた。
 第2に、調査対象のR&D人材の現在の所属部門は、両部門共に開発・設計に集中しているが、この傾向は民間部門でより顕著であった。両部門とも基礎研究には4%弱しか所属していなかった。今後最も希望する所属部門は、研究企画であった。開発・設計と応用研究、とりわけ開発・設計はそのシェアを激減させている一方で、基礎研究志向は見られなかった。
 第3に、年齢限界の最も大きな理由は、管理業務をはじめとするR&D以外の仕事負荷が高まることにより、また体力的低下がR&Dへの余力を少なくし、その結果、R&D人材としての限界が訪れるというものである。技術革新についていけないとか、発想力が衰えるという要素より、これらの研究に集中できる時間や余力が削られるからという要素が大きかったといえる。
 第4に、台湾のR&D人材は管理職志望より研究開発志向がきわめて強いという特徴が見られた。
 なお、本稿に残された課題は多い。例えば、キャリア意識は組織タイプだけではなく、むしろ年齢や学歴、配属部門などにより大きく影響を受けるものかもしれない。また、研究成果と転職やキャリア意識とを結びつけて検討することが残されている。一部は『組織行動研究』(慶應義塾大学、近刊)に発表予定である。