表題番号:1999A-598 日付:2002/02/25
研究課題光反応ダイナミックスとそのレーザー制御の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 高橋 博彰
研究成果概要
 (1)ジベンゾスベレノンの光化学反応:ピコ秒時間分解ラマン分光法により、励起三重項状態T1での振動冷却過程を観測した。励起一重項状態S1での振動冷却については、これまでかなりの報告があるが、T1状態で振動冷却が観測されたのはこれが初めてである。この分子では、S1がn - π*状態、T1がπ - π*であり、S1→T1項間交差が許容であるため、S1→T1項間交差が数ピコ秒の短時間に起こる。この結果、T1の振動励起状態にある分子数が瞬間的に増大するために、振動冷却過程が観測されたものと考えられる。なお、振動冷却は、ラマンバンド1517cm-1の20-100psの時間領域での高波数シフトとして観測されたが、このバンドに対応する反ストークスバンドは観測されなかった。実際の振動冷却は低波数振動モードで起こっていると考えられる。
(2)ビフェニルの光化学反応:励起一重項状態S1の構造が中央のC-C結合周りでねじれた構造から平面トランス形に変化することを明らかにした。この構造変化の時定数は20ピコ秒以下であり、粘性の大きい溶媒中では構造変化は減速する。S1状態のラマンスペクトルはT1状態のラマンスペクトルに極めて似ていることが分かった。このことは、S1状態の構造がT1状態の構造と類似していることを示唆している。ナノ秒時間分解赤外吸収スペクトルとナノ秒時間分解ラマンスペクトルとの比較から、T1状態は対称中心を持つトランス平面構造をとっていることが分かった。従って、S1状態も同様の平面構造をとっていると考えらる。
(3)クロルプロマジンの光化学:ナノ秒時間分解ラマン分光およびレーザーフラッシュフォトリシス法により、フェノチアジン、クロルフェノチアジン、プロマジンおよびクロルプロマジンの光化学反応において、出現する過渡分子種の共鳴ラマンスペクトルと過渡吸収を測定した。これらの内、クロル誘導体ではカチオンラジカルから560nmに吸収をもつ過渡分子種Xが、更に、Xから380nmに吸収を示す過渡分子種Yが生成することを明らかにした。クロル誘導体の光毒性が大きいことから、Xが主要な生理活性種である可能性が高いと結論した。