表題番号:1999A-571 日付:2002/02/25
研究課題骨格筋形成における筋原細胞の融合の機構に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 木村 一郎
研究成果概要
 骨格筋筋原細胞はその分化過程において、コミットメントに伴って融合能を獲得するが、その分子機構にはいくつかの可能性が考えられる。本研究は、コミットメント過程において細胞融合に直接関与する細胞膜分子の新生が起こる可能性について検討を加えようとしたものである。これまでに融合能を持つ筋原細胞に特異的な細胞膜タンパク質の同定を試みた研究がいくつかあるが、それらは筋原細胞あるいは細胞融合に特異的なものではなく、おそらくは融合の前過程としての細胞接着に関与する分子に対するものであると思われた。
 先ず、ニワトリ胚初代培養筋芽細胞の融合開始期および融合期にあるものについて、その全細胞あるいは粗細胞膜分画をウサギに抗原として投与し、得られた抗血清についてそれらの融合阻止作用を調べ、阻止作用を示すものについて増殖期の細胞あるいは細胞膜分画で吸収することにより、融合を阻止する抗体を含む抗血清標品を得ることを試みた。しかしながら、得られた粗血清がすべて細胞の増殖と分化を著しく阻害することが示され、またその阻害作用は吸収後のものについても示された。何度かにわたる試みにもかかわらず、現在までのところ期待した結果は得られていないが、今後戦略および方法のさらなる検討を行いたいと思っている。
 ところで、本研究課題遂行の過程で、生理活性物質、抗体等の作用の検討における無血清培養系の確立の必要性が痛感されたため、これまで初代培養筋芽細胞・衛星細胞、株細胞等の筋前駆細胞の培養で報告されていた無血清培養液と我々の経験をもとにニワトリ胚初代培養筋芽細胞に適した無血清培養液の開発を試みた。その結果、ダルベッコ改変イーグルMEMにウシインスリン、ニワトリトランスフェリン、ウシ血清アルブミン、ヒト線維芽細胞成長因子-2を加えたものが、筋芽細胞の増殖とそれに続く分化を実現するのに極めて有効であることが判明した(Zool.Sci.17:201-207(2000))。この培養液は今後の筋発生研究にとって価値あるものとなると考えられる。