表題番号:1999A-547 日付:2002/02/25
研究課題合金の遮蔽効果とフェルミ面
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 角田 頼彦
研究成果概要
 金属母体に不純物が導入されると、金属では自由に運動出来る伝導電子が存在するので不純物原子核の余分な電荷を遮蔽するように電子が集まる。このとき、遮蔽電子の分布は一様な変化をせず、電荷分布が母体金属のフェルミ面の形状を反映した振動を示すことが知られている。(Friedel Oscillation)特に、フェルミ面の形状が平行な平面を形成している場合は、この振動の振幅は非常に大きく、しかも長距離に及ぶ。また、不純物が磁性金属である場合には、不純物スピンを伝導電子のスピンが遮蔽する。この場合もフェルミ面の形状が反映される。(sd相互作用)我々はPtやPdに3d遷移金属を不純物として導入した際、不純物の種類によって系統的に変化する3種類の異なるタイプの振動する遮蔽が起こり、遮蔽電子の相互作用を通して不純物間に相互作用が働き、3種類の異なった、結晶格子の周期とは非整合な波長を持つ変調波の短距離秩序が形成されることを見出した。即ちTi、V、Cr合金では、構成原子の濃度が波状に振動する濃度密度波、Cr、Mn合金ではスピンの方向が振動するスピン密度波、Fe、Co合金では強磁性スピンの向きが変調した強磁性スピン変調波である。これらの波はPtやPdのフェルミ面の形状を反映して、どれも[1 0 0]結晶軸方向に伝播する同じ対称性をもつ波で、不純物濃度によって波長が連続的に変化する。この波はいずれも短距離秩序であることが特徴である。このようにして生じた短距離秩序は、これらの系の物性に多大な影響をあたえており、いくつかのスピン密度波系ではスピングラスの原因になっているし、強磁性体でも磁化が飽和しにくいのはこの変調波のためである。これまで不純物の遮蔽が原因で形成された、合金中にフェルミ面の形状を反映した非整合の波はCuMn合金のスピン密度波が知られていたが、今回のPt、Pd系合金のように不純物ポテンシャルを変化させたときに系統的に変化する変調波の発見は始めてである。