表題番号:1999A-546 日付:2002/02/25
研究課題超高周波誘電緩和による水と有機化合物の混合系の動的分子会合の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 千葉 明夫
研究成果概要
 時間領域反射法(TDR法)を用いたマイクロ波誘電分光法により、数ピコ秒~数百ピコ秒レベルの分子ダイナミクスを観測し、誘電緩和時間、緩和強度、スペクトル形状の精緻な検討から、水と各種有機化合物の相互作用と混合状態の動的側面を調べた。「時間領域分割モディファイドダイレクト法」という測定法の導入により、導波管を用いた周波数領域法と同等の精度のデータを短時間で得ることが可能となり、種々の系の誘電緩和時間を1%程度の誤差という高精度で得ることができた。
 本研究の中核を成したのは水-アルコール系の研究である。生体物質の機能発現と高次構造安定性に重要な役割を果たしている疎水性効果を調べるモデル物質系として、水-メタノール、水-エタノール、水-1-プロパノール、水-2-プロパノール、水-tertブタノールの混合系を選び、溶質疎水基の大きさと形状の違いが疎水性水和(疎水基周囲で水の水素結合網が強化される現象)や疎水性相互作用(疎水性水和によるエントロピー効果により疎水性溶質が会合する傾向を持つ現象)に与える影響や、わずかな濃度変化に強く依存する混合状態の動的側面について系統的に調べ、比較検討した。我々が初めて実現した2成分混合系における活性化の自由エネルギーΔG、エンタルピーΔH、エントロピーΔSの過剰量及び過剰部分モル量を定量的に評価する解析法をこれらのアルコール-水混合系に応用し、多様な系における水と有機化合物の相互作用を統一概念で記述する道を示した。
 全ての系でアルコールの過剰部分モル量ΔHAEとΔSAEが、極大を示す特異な2つの濃度(エタノール系ではX=0.04と0.08;Xはアルコールモル分率、水の体積分率Xvに換算すると全ての系でXv=0.9と0.78付近)の存在を見出し、MDシュミレーションや熱力学測定等の結果との比較から、水の局所構造がテトラへデラルペンタマーで、アルコール単分子を囲むクラスレート状水和シェルと、疎水性相互作用によって会合した2つ以上のアルコール分子を包摂し、水の局所構造が3配位である水和シェルの2種類が存在することを示した。また、アルコール高濃度領域(エタノール系ではX>0.18、全ての系でXv<0.4-0.5)ではΔHAEとΔSAEはゼロに近いことを見出した。この濃度域では、混合系中のアルコール分子を取り巻く環境は、純粋液体中とあまり変わらないことを明らかにし、アルコール分子は鎖状のクラスターを形成し、水分子は親水基のサイトに付加しているという描像を得た。これらの結果は国内外の学会で発表され、積極的な論文発表を行った。