表題番号:1999A-542 日付:2004/03/04
研究課題秩序変数と自発歪が競合する相転移での動的構造ゆらぎ
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 小山 泰正
研究成果概要
 La系酸化物超伝導体には、低温構造相転移と呼ばれる低温斜方晶(LTO)相からPccn相、さらに低温正方晶(LTT)相への逐次相転移が存在する。以前我々が行ったLa1.5Sr0.1Nd0.4CuO4に関する研究から、低温構造相転移の進行は、低温相であるPccn/LTT傾斜領域の動的ゆらぎを伴うことが明かにされている。この動的ゆらぎは、相転移の主秩序変数であるCuO6八面体の傾斜と副秩序変数である自発歪e4の競合によるものであり、このため低温構造相転移が報告されていないLa2-xSrxCuO4においても、動的平衡状態として、その存在が期待される。そこで本研究では、La2-xSrxCuO4におけるこの動的ゆらぎの存在を透過型電子顕微鏡を用いて明かにした。
 本研究で用いたLa2-xSrxCuO4試料は、クエン酸共沈法により作製したx=0.12セラミック試料である。透過型電子顕微鏡用試料には、Arイオン・シンニング法を用いて薄片化したものを用いた。低温構造相転移のその場観察は、液体ヘリウム二軸冷却ステージを備えたH-800型透過型電子顕微鏡を用いて、電子回折図形および明・暗視野像を撮影することにより、12Kから室温の温度範囲で行なった。
 得られた実験結果から、x=0.12を有するLa1.88Sr0.12CuO4において低温構造相転移の存在が明らかとなった。具体的には、低温相であるPccn/LTT傾斜領域は、転移点TL≒135KでLTO分域界面に沿って核成長し、その後幅広がり成長を起こすとともに、LTO分域内にも出現することが示された。特に、LTO分域内のPccn/LTT領域は、静的なものではなく、動的ゆらぎとして存在することが分かった。さらに、動的挙動はPccn/LTT領域の大きさにより異なることも示された。結局、これらの実験結果から、LTO分域内のPccn/LTT傾斜領域の動的挙動は、主秩序変数の平衡ゆらぎであると結論した。