表題番号:1999A-540 日付:2002/02/25
研究課題角度分解型トンネル分光法による結晶内電子状態の異方性の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 尾崎 肇
研究成果概要
 電子のトンネル現象は、電子デバイスやエネルギー分光法として広く応用されているが、そこで考慮され、適用されているのは、専らトンネリングにおけるエネルギー選択則であった。1990年に筆者らは、結晶内電子のブロッホ状態間トンネリングにおける横方向波数保存則に注目し、結晶面間トンネリングの面内結晶間角度依存性から、結晶内電子状態の異方性を調べる測定法を提案し、層状構造物質に対して、モデル計算と測定結果を初めて報告した。
 本研究ではこの手法が、電子状態の等エネルギー面が層状構造物質の場合のようにトンネリング方向にチューブ状になっていない、3次元性物質に対しても有効であることを示すと共に、光学測定などでは測定困難な波数空間の方位における電子の等エネルギー面の形状を測定することを目的として、Si(111)面間に対して角度分解型トンネリング測定を行い、Si伝導帯のいままで測定されていない波数領域におけるエネルギーの波数依存性を明らかにした。同時に、高濃度ドープn-Siのような小さなフェルミ面に対しても、この手法が有効である事が明らかにされた。この成果は、2000年9月に大阪で開催された第25回半導体物理国際会議で発表した。
 さらに本研究では、この測定法を銅酸化高温超伝導のフェルミ面の異方性の研究に適用した。高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8+δのフェルミ面の形状と超伝導ギャップの異方性は、高温超伝導の発現機構の解明とも関連して興味が持たれ、角度分解型光電子分光法により明らかにされつつあるが、本研究では角度分解型トンネル分光法により、超伝導転移温度以上の温度領域で観測される擬ギャップの異方性を初めて求めた。この結果は、2000年9月に新潟で開催された日本物理会で報告した。