表題番号:1999A-534 日付:2002/02/25
研究課題強誘電性液晶セルの電場配向の3次元解析一時間分解顕微ラマン分光法による研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 伊藤 紘一
研究成果概要
 強誘電性液晶(FLC)セルは、双安定性、高速応答性、広視野角など点で、現在広く用いられているネマティック液晶セルに比して種々の優れた性能を示し、液晶ディスプレイの広い応用が期待されている。しかしながら配向膜表面とFLCとの相互作用がいかにして双安定性を発現するか、また、その相互作用がFLCの電場配向過程にどのように影響するか、などの問題点の解明は、FLCセルの性能向上に不可欠であるにもかかわらずきわめて不完全な状態にある。この主な原因は、従来の測定手段がFLCセルの電場応答性についてセルの厚さ方向について選択的な情報を与えることが出来なかったことに由来している。本研究では、ナノ秒の高い時間分解能を有するラマン分光性とATR(Attenuated Total Reflectiion)法を組み合わせて、励起レーザー光の入射角度によってセルの厚さ方向の電場プロファイルを変化させつつ時間分解ラマンスペクトルを測定して、FLCの印加電場に対する応答性をセルの厚さ方向について詳細に調べることを目指した。また、顕微測光方式を採用して二次元的な情報も収集して、FLCの電場応答性の三次元解析も行った。
 FLCにはフェニルピリミジン骨格をもつ試料を用い,高屈折率円筒型プリズムの底面(15mm×15mm)にITO電極/配向膜/FLC/配向膜/ITO電極の層状構造を持つセルを作製した。配向膜としてSio斜方蒸着膜を採用した場合、ダイレクターの方向がプリズム軸に平行な配向と45°傾いた2つの安定構造を示した。+10 ― -10Vの交番短形電位印加による双安定状態間の転移の過程にともなうFLCのラマンバンド強度の時間変化を、励起レーザー光のプリズムに対する入射角度を全反射角前後で変化させつつ測定し、セルの厚さ方向についての光学的異方性変化を仮定して理論的シュミレーションし解析した。その結果、配向膜近傍のFLCの時間応答性はバルク相に比してきわめて遅いこと、一方印加電場を切るとバルク相の一部がその双安定構造を速やかに失うことなどの新しい知見を得ることが出来た。