表題番号:1999A-514 日付:2002/04/02
研究課題近世日本語アクセントの研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 上野 和昭
研究成果概要
 本研究は、近世日本語(京都を中心とした地方)のアクセント研究を、文献資料である「平曲譜本」を用いて行なおうとするものである。平曲の譜記には複雑な旋律をあらわすものも多いが、ここでは、譜記からアクセントを解釈することが比較的容易な〈口説〉〈白声〉という大旋律型(以下「曲節」とよぶ)に属する部分を主として利用した。底本は東京大学国語研究室蔵本である。あらわれる譜を、それぞれの譜相互の関係、また無譜部分との関係において、いかなるアクセントを反映するものであるか、また、それらから推定されるアクセント体系はどのようなものであったか、という問題を中心に検討したが、なお以下のような諸問題があることが明らかになった。
1 音楽性の強い曲節には、いわゆる語頭低下という旋律付け(節付け)がされることがある。これらは、その譜記とアクセントとの対応がほかの部分と同様には考えられない。
2 それについて、いわゆる低起無核型の語が後ろに高起式の語を付ける場合の旋律(またそれから推定されるアクセント)との違いを明確に把握する手法が問われる。
3 単語それぞれのアクセントを知るよりも、それが複合語や文節、また連文節、文、段落の中でどのような音調的なあり方をしているかが問題にされる。その意味ではいわゆるアクセント研究を越える可能性が出てくる。
4 また従来行なわれてきた単語区切りの研究から排除されがちであった、活用形アクセントのいわゆる「特殊型」などを助動詞接続形全体として問題にすることが必要である。複合用言についても、用例を集めることでその実態を把握しなければならない。
5 複合にも、その程度に応じて接合・結合・癒合などという段階があり、それらが場合場合によって、どれほど構成部分のアクセントを残しているか、また、どれほど全体として音調的に機能しているか、といったことに着目する必要がある。