表題番号:1999A-506 日付:2002/02/25
研究課題経済学は知識をいかに捉えてきたか-知識中心型経済成長理論の学史的系譜-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 助教授 若田部 昌澄
研究成果概要
 現在、経済学において、経済成長・発展の原動力としての新しい「知識」(発明、革新、熟練、技術移転)の創造と、それを可能にする制度・組織・政策に対する関心が高まっている。この研究は、過去の経済学者たち、とりわけイギリスを中心とする古典派経済学者たちが、経済成長・発展における知識の意義をどのように認識し、理論化したかを探ることを目的としている。具体的には、期間内に以下の二つの研究を行いえた。
 第1に、主たる目標であった、ジョン・レーとその同時代人である1820から1830年代のイギリスの古典派経済学者たちが知識と経済成長の関係をどのようにとりあげていたかを明らかにした。その要点は、次のように要約される。A) 知識が経済発展に果たす重要な役割についてはほとんどの経済学者が認識していた。とくに1820年代以降はますます知識の役割を重視していたといえる。しかし、B) その中で経済学的な分析の域に達したのは少なかった。例外的な存在がジョン・レーであった。レーの業績は、たとえ現代から見れば細部においては不十分であろうとも、知識創出の経済学的分析を通じて知識を経済成長理論の内部に組み込もうとした点で、先駆的な洞察とみなしうる。以上については、Wakatabe 2000として刊行した。
 第2に、同時代人だけでなく、彼の先人・後続者との比較研究も重要である。研究期間内には、後続者としてのウィリアム・エドワード・ハーンとの比較を試みた。その要点は、次のように要約される。ハーンの場合、知識の役割を強調する意味ではレーと非常に近いが、その分析は知識が交換や分業の進展といった他の要因と補完的な関係にあることを強調している。そこから、政策提言も異なってくる。以上についてはWakatabe 2001として刊行した。