表題番号:1999A-505 日付:2002/02/25
研究課題電子マネーが経済理論に与える影響
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 松本 保美
研究成果概要
 貨幣の役割の中でも最も重要なのは決済手段としての役割である。この面から現状を見ると、大口決済、口座引き落とし/振り替えなど、大部分の決済が電子決済であることがわかる。つまり、現在流通している貨幣がそのまま電子マネー化している。すなわち、大部分の決済は実際には帳簿の付け替えで終わり、現金の実際の受け渡しはネットで行われているに過ぎない。電子化されていないのは個人の現金需要の決済である。このための最も経済合理的な対応は、理論的には、必要なときに必要なだけ決済または現金化することである。これは、現在使用されているクレジットカードやデビットカードなどで充分対処可能であり、特に新しい電子マネーを作る必要性は感じられない。現在の経済制度で考える限り、電子マネーは、決済を安全かつ迅速に完結させるという、技術発展に基づく従来の効率化の延長線上にある一手段にすぎない。あらたに特別な貨幣をわざわざ作る必要性は感じられない。
 ところが、電子マネー技術確立の影響は、現在の経済システムの外側から全く別な形でやってきて、現行システムを根底から揺さぶることになる。今日の貨幣は、人々が貨幣と信ずる限りにおいてのみ貨幣であり、それ以外の存立基盤を持たない。貨幣や手形の発生の歴史を見ても分かるように、経済学的に、通貨発行権が政府・中央銀行および一部の認可された銀行に限定されなければならないという理由は全くない。現状を見る限り、どの国・経済地域においても、比較の尺度としての為替レートとして示される通貨価値はせいぜいその経済の平均的実力を示すにすぎない。単一表示の為替レートが、企業によっては高過ぎたり安過ぎたり、様々なのは当たり前である。今日の巨大な多国籍企業の多くは世界中で活動し、その経済的影響力や活動規模は大多数の国々よりも大きい。そのような組織の中には、独自の私的電子マネーを持つ方が有利だと判断するところもあるだろう。何故なら、独自の電子マネーを持つことで彼らは通貨発行益、大量の資金調達、納税回避などのメリットを享受出来、目障りな政府の干渉を回避出来るからである。