表題番号:1999A-307 日付:2002/02/25
研究課題アンバンドリングされた業界の次世代の業界構造
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) アジア太平洋研究センター 教授 山田 英夫
研究成果概要
 川上から川下までのすべての経営資源をもつ垂直統合型(タテ型)企業の事業運営が、難しくなってきた。その背景には、規制緩和やインターフェイスの標準化、ユーザーが賢くなったことなどがあげられる。規制緩和によって、従来独占されていた事業に新規参入が可能になり、バリューチェーン(ポーター1985)の一部分だけを担当する(ヨコ型)企業が生まれてきた。またインターフェイスの標準化も、バリューチェーンの一部分だけを担当する企業の新規参入を促す。さらにユーザーが賢くなり、メーカーから一括購入するユーザーが減り、バリューチェーンの必要な部分だけを小割り購入するユーザーが出てきた。例えば、メインフレームやオフィス・コンピュータ全盛期には、メーカーに丸投げしていたものが、最近では、システム構築に必要なサーバーだけを、メーカーから購入するようなユーザーが増えてきたのである。
 このように、事業構造がタテ型からヨコ型に変化してきたのであるが、日本の伝統的大企業は、従来のタテ型の経営資源を捨てて、ヨコ型に転身することは難しい。これは、資源が少ない故にヨコ型に特化できる米国のベンチャー企業と違い、すでに多くの経営資源を持ってしまっているからである。そのため日本の大企業では、タテ型とヨコ型の両方の事業を同時に推進しようとしているが、この2つはスピードや評価基準が違うことから、両立は極めて難しい。
 しかし従来一体であったバリューチェーンが解体され、アンバンドリングされた状態が、はたして最終的な形態かと言うと、例えば一括購入から小割り購入に変えることによって、ユーザーは購入費用を節約できるが、反面小割り購入に伴う手間を負担しなくてはならない。ユーザーにとっては、コストが高く選択の自由度もないタテ型の時代には戻って欲しくはないが、面倒な手間なく一括購入できるリ・バンドリングのニーズが出てくる。
 例えば、アメリカでは電力の自由化が進んでおり、企業は様々な会社から電気を購入できる。しかし、どこから購入すればよいかを毎日判断し続けるのは大変である。そこでコストやリスクを総合的に判断した上で、顧客に代わって電気を調達し、最適な組合わせを提供し、手数料をもらうESCO(Energy Service Company)と呼ばれる会社が生まれている。
 ユーザーから見た場合、こうしたリ・バンドリング業者を依頼するメリットとしては、(1)オペレーション・コストの削減、(2)セットアップ・コストの削減、(3)保証の実現、(4)最適な資源配分、(5)一貫性の保持、というような点があげられる。
 以上のように、事業構造はバンドリングされた状態からアンバンドリングヘと向かうが、それは最終的な形ではなく、バラバラにされたバリューチェーンを、もう1度顧客の視点で統合してあげるリバンドリング・ビジネスが生まれてくるのである。