表題番号:1999A-271 日付:2004/03/31
研究課題不安定原子核のベータ崩壊の研究とその応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 橘 孝博
研究成果概要
 不安定原子核のベータ崩壊を研究するために、これまで大局的理論がいろいろな形で応用されてきた。 この理論は各核種のベータ崩壊強度関数を推定できる理論で、 本年度は主として崩壊熱計算にこの理論を用い、研究を進めた。 中性子の瞬時照射後に引き起こされる核分裂で発生する熱量は、原子炉の安全性解析の上で欠かせない情報である。 これは実験と理論の両面で研究が進んでいて、本研究代表者も参加する日本原子力研究所シグマ委員会が作成したJNDCファイルはその代表的な基礎データライブラリーである。 この他にも米国のENSDFファイル、欧州のJEFファイルがある。 実験では核分裂後の総放出熱量を時間の関数として測定するが、理論計算では核分裂で生成される各核分裂生成核種の平均ベータおよびガンマ崩壊熱を遅発中性子、アイソマーなどを考慮しながらひとつひとつの核分裂生成核種について足しあわせたものを時間の関数として表現することになる。 これまでは、中性子瞬時照射後10秒程度以降の時間が主な議論の対象であり、大局的理論で補強したJNDCファイルは良好な総和計算値を提供してきた。
 近年Lowell大学での実験で照射後数秒の範囲で測定が行われたので、各核種のベータ崩壊定数、平均ベータ崩壊熱、平均ガンマ崩壊熱を大局的理論だけで推定した値で、総和計算を行った。 理論に含まれる底上げパラメータを適度に調整することで実験との良い一致が得られたが、最適な結果をもたらすためには崩壊定数に対するパラメータ値と、ベータおよびガンマ線平均崩壊熱に対するパラメータ値が違うことが分かった。 これは、崩壊定数用のパラメータ値は全核種領域で決め、平均崩壊熱に対しては核分裂生成核種領域だけで決めているという不合理があるためで、今後理論の改良とともに進められるべき研究課題である。 主な結果は論文として、日本原子力学会欧文誌(2000年6月号)に掲載されることが決定している。