表題番号:1999A-263 日付:2002/02/25
研究課題バーチャルリアリティを応用した痴呆性高齢者の診断・リハビリシステムの開発と評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 助手 河合 隆史
研究成果概要
 本研究は、バーチャルリアリティ技術を、高齢者のリハビリテーションへ適用するための取り組みである。筆者らは、昨年度までに痴呆性高齢者の表情の測定と解析を行っており、軽度の痴呆性高齢者が、映像刺激に対して強い興味を抱く傾向が認められている。そこで本研究では、映像刺激として高臨場感な立体映像を利用した、リハビリテーション機器の開発を検討している。今年度は、立体ディスプレイシステムを試験的に構築し、痴呆性高齢者に立体映像の観察を求め、両眼立体視機能に関する調査と、本システムに適した患者の検討を行った。
 実験は、山口県下関市の昭和病院のリハビリテーション室で実施した。日常会話が行える程度の軽度の痴呆性高齢者10例に対し、ランダム・ドット・ステレオグラムと海中風景などの実写映像を観察させた。立体映像の呈示には、指向性反射スクリーンを用いた投射型立体ディスプレイを用いた。このディスプレイは、明るい部屋で特殊なメガネを着用することなく、大画面の立体映像を鑑賞することが可能という特徴があり、病院内での利用に適していると考えられた。データの測定は、映像観察中の、問いかけによる立体視の確認の他、2台のビデオカメラで被験者の表情と身体動作の撮影を行った。また、映像呈示後に、本システムで用いるコンテンツに関するインタビューも行った。さらに、映像呈示前後に、眼精疲労に関する自覚症状の調査を行った。
 実験の結果から、8例の被験者のうち、6例が呈示映像に対して立体視を形成していることが推測された。解析においては、痴呆度を示す長谷川式スコアとADLスコアに関して、立体視形成との関係を検討した。各スコアに関して、ノンパラメトリック検定を行ったところ、ADLスコアと立体視形成において、5%水準で有意差が認められた。これは、痴呆性高齢者の立体映像との適合性について、痴呆度よりもADLスコアとの関連性が高いことを示唆している。同時に、ADLスコアが高い被験者ほど、立体映像に対し、強い興味を示す傾向が認められた。また、眼精疲労に関する調査では、映像呈示前後での顕著な変化は認められなかった。
 本研究の今後の課題としては、(1)システムの試作と評価、(2)コンテンツの選定と制作、(3)リハビリテーション効果の検討等が残されている。