表題番号:1999A-243 日付:2003/12/19
研究課題フィレンツェ共和主義の比較研究--サルターティ、ブルーニ、グッチャルディーニ、マキァヴェッリ--
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 助教授 厚見 恵一郎
研究成果概要
 1999年度は、14-16世紀のフィレンツェ共和主義を代表する3人の著述家---Coluccio Salutati (1331-1406), Leonardo Bruni (1369-1444), Francesco Guicciardini (1483-1540)---の所説を検討しつつ、とくに共和的自由・市民的徳・政体の概念について、マキァヴェッリとの比較を通じて、共和主義の近代的源泉に迫ることを試みた。
 研究の焦点は、ペトラルカ流の人文主義的な修辞学の影響をなお強く受け継いでいるサルターティ、ブルーニ、グッチャルデーニの共和主義と対照して、マキァヴェッリの共和主義の近代的性格を明らかにすることであった。その際、唯一の公共意志への献身という市民的徳に支えられた一様な政治共同体を前提とするルソー的な一元的共和主義の要素と、国家内での階層対立を前提とする複合的な共和主義の要素とが、マキァヴェッリ共和主義のなかで同居している点に着目した。他国との事実上の力関係によって傲慢と卑屈を往復するのではなく、政治の論理と政治権力、公的正義と私的利害とを峻別しつつ、内なる独立と外なる独立、個人の自立と国家の自立とを不可分のものと考えていく点に、マキァヴェッリ国家論の共和主義的性格と近代的性格との双方が存する。マキァヴェッリの「永続的(運動の)共和国」(perpetual republic)が近代の非人格的国家への道を開いたとするH.マンスフィールドの主張や、マキァヴェッリの近代性の一端は道徳的徳と共和的徳との伝統的優位関係を逆転させた点に存するとするL.シュトラウスの主張は、共和主義と近代性との関係を考察する際の有益な示唆を与えてくれる。
 本研究の特徴は、大西洋圏共和主義の伝統にマキァヴェッリを位置づけるJ.G.A.ポコックの手法にならいながらも、ポコックが同一地平上に見たマキァヴェッリとフィレンツェ共和主義者たちとの相違をむしろ浮き立たせ、近代的共和主義の観念を明確化しようとする点に存する。1999年度は、歴史的アプローチと理論的アプローチを併用しながら、サルターティ、ブルーニ、グッチャルデーニ、マキァヴェッリの著作および研究文献の収集と読解をすすめた。