表題番号:1999A-240 日付:2002/02/25
研究課題現代ラテンアメリカの政治体制と女性-民主主義・新自由主義とジェンダー・階級-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 畑 惠子
研究成果概要
 本年度は基本的資料の収集にあたった。分析は始めたばかりであるが、1980年代からの民主化および民主主義の確立に向けての動きは、一国内、もしくはラテンアメリカという地域レベルでとらえるだけでは、あるいは政治制度の問題としてとらえるだけでは不十分であり、民主主義と新自由主義的経済政策を唯一の選択肢とする国際的な圧力をも視野に入れるべきことを強く認識するにいたった。もとより、私が民主主義として考える範疇には、経済・社会的側面が含まれており、経済・社会的視点から民主主義を問いなおすことを主眼としているが、今日のラテンアメリカ民主主義の特徴はまさに新自由主義経済政策との抱き合せにあり、そこを出発点とする必要と改めて確認した。
 そのような視点にたって、キューバ、メキシコに関する研究を始めた。キューバについては社会主義体制であるが、同時に、限定的かつ特殊であっても、90年代に入り、国際的な変動に呼応して、政治の「民主化」(直接選挙の導入など)や経済の選択的自由化(外資導入、ドル所持の自由化、個人営業の解禁など)が進んでいることから、ラテンアメリカ全域で進行中の大きな流れのなかでとらえることも可能である。ラテンアメリカ学会定期大会の「ラテンアメリカにおけるジェンダー-女性の政治参加を中心に」というパネルで92年の選挙法の改正と女性の政治参加について報告し、「キューバの新しい社会と女性」においては、選挙法の改正が女性の政治参加に及ぼしている影響と90年代の経済政策の変更が女性労働にもたらす変化についても言及した。また、新自由主義的経済政策は輸出加工工業で安価な女性労働需要を高める一方で、女性をフォーマルセクターからインフォーマルセクターに追いやる傾向があること、また福祉政策の切り捨てによって人々の生存を保障するための家庭の役割を拡大させることが指摘されるが、効率性と競争力の向上を目指す新自由主義的政策が、ペイドワーク・アンペイドワークを含めて女性労働にどのような変化を生じせしめているのか、労働や家庭のジェンダー関係にどのような変化をもたらしているのかについても、ラテンアメリカ・カリブ地域全体について概観し、メキシコを中心にした分析を開始した。このような視点から、メキシコ・キューバを中心にした分析を継続する予定である。