表題番号:1999A-235 日付:2002/02/25
研究課題中華民国臨時政府法制の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 島 善髙
研究成果概要
 私が中華民国臨時政府時代の法制を調べてみようと考えるに至ったのは、一つには瀧川政次郎氏が嘗て『日文新民六法全書』(中華民国28〔昭和14〕年6月、新民印書館刊)や『臨時維新両政府法令輯覧』(同年8月、新民印書館刊)を出版されており、それらを調べることによって臨時政府や維新政府がどのような方針で法律を施行し、かつ運用していたのかを知ることができるのではないかと思ったからである。二つ目には瀧川氏とも親交があり、晩年、臨時政府のもとで司法委員長という重責を荷なっていた董康氏が、法制面でどのような働きをしたのか知りたかったからである。そして三つめには、かつて私が調べた国立新民学院において一体どのような法学教育が行われていたのか、それを更に追求したかったからである。以上を当面の研究課題としていたが、第一の臨時政府の法制そのものについての研究は注文していた民国期の法令集が入荷しなかったこともあって、全く進展しなかった。第二の董康氏については、これまで入手していた『書舶庸譚』(中華民国六十年九月、世界書局、中華学術名著第七輯)、『中国法制史講演録』(出版年不明、文粋閣)、『清秋審条例』(東京大学東洋文庫蔵)以外に、『民法親属継承両編修正案』(瀧川政次郎訳注『中華民国臨時政府民法親族相続編修正案』、『司法資料』第270号、昭和16年6月がある)、「前清法制概要」(『法学季刊』第2巻第1期)、「論法官之宜三省四絶」(『新民学院季刊』第1巻第1期、中華民国31年6月)、「修成刑事証拠法」(『新民学院季刊』第1巻第1期、中華民国31年6月)、「二十年奉職西曹之回顧」(『新民学院季刊』第1巻第4期、中華民国31年12月)、「二十年奉職西曹之回顧(二)」(『新民学院季刊』第2巻第1期、中華民国32年3月)、「唐律併合罪説」(東呉大学法学院法学季刊社『法学季刊』第4巻第5期、中華民国19年7月)等々の論著があることがわかり、また董康氏の写真が瀧川政次郎氏の「燕滬遊記」(三)(『社会経済史学』第4巻第1号、昭和9年)のほか、『中国抗日戦争史写真集』52頁にも載っていることを知った。その他、董康氏は『法学季刊』(東呉大学法学院の機関誌)の顧問として邱漢平らとともに名を連ねていることもわかった。第三の国立新民学院での法学教育については、国立新民学院で出していた『新民学院季刊』や『彙報』に若干の関連論文が掲載されているので、ここから多少の事柄は窺い知ることが出来る。特に第2巻第1期(中華民国32年3月)に「北京地方法院実習報告書」なるものが掲載されていて、中華民国31年(昭和17年・西暦1942年)時点での北京地方法院の様子が詳細に紹介されている。今後はこれらの史料を元にして、日中戦争下の北京における法制を更に究明して行きたいと考えている。