表題番号:1999A-204 日付:2002/02/25
研究課題化学反応速度論を考慮した燃焼モデルの構築と各種燃料の燃焼過程の素反応機構の調査
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 専任講師 草鹿 仁
研究成果概要
(1) 燃焼素反応文献調査:燃焼反応機構が多数掲載されている学術論文誌 'Combustion and flame'、'Symposium(International) on combustion'、 ' Combustion science and technology'を中心に、1970年から各種燃料の燃焼素反応及び燃焼過程における有害排出物質の生成機構を調査し、データーベースを作成した。
(2) エンジンを用いた燃焼実験:申請者らが現有するエンジン実験装置を用いて、天然ガス及び軽油と類似した燃焼特性を有するノルマルヘプタンを対象に予混合圧縮着火特性を調査した。
(3) 応速度論を考慮した燃焼モデルの構築:天然ガスの代表組成はメタン88%、エタン5%、プロパン5%及びブタン2%であることから、燃焼スキームにはC4のケミストリーが必要となる。(1)で調査した素反応機構により得られる各化学種の速度方程式をエネルギー方程式と組み合わせ数値的に解くことで、ショックチューブ、急速圧縮膨張装置などの実験結果と着火遅れ時間を比較した。その結果、「S. Kojima," Detailed Modeling of n-Butane Auto-ignition chemistry", Combustion and Flame Vol.99, 1994 」が各種実験の結果を合理的に説明できることが分かった。そこで、これらにサーマルNOとプロンプトNOの生成反応を加えた反応スキーム(素反応数508、化学種151種)を用いてエンジンにおける燃焼をシミュレートした。この結果、計算により得られたシリンダ内圧力線図は、実験から採取された圧力線図をよく再現し、実際のエンジンの燃焼を記述することが可能であることが明らかになった。また、計算によって得られたNOの生成量は実験結果と合致することから、本燃焼モデルを用いて低NOかつ高効率となる運転条件を予測した。
 同様の計算手法を用い、軽油に近い圧縮着火特性を有するノルマルヘプタン(C7H16)について計算を行った。反応スキームには、「H. J. Curran, P.Gaffuri, W. J. Pitz, and C.K. Westbrook, "A Comprehensive Modeling study of n-Heptane Oxidation", Combustion and Flame,: Vol.114, pp.49-177, 1998」をベースに、前述したN系の反応及び、ディーゼルエンジンから排出される微粒子の前駆物質と考えられるPAH( Poly-cyclic Aromatic Hydrocarbon) の生成を記述した素反応を組み入れ、燃焼及び有害排出物質の生成過程をシミュレートした。その結果、実験で確認されたノルマルヘプタンの2段燃焼(低温酸化、高温酸化)特性をよく再現できることに加え、PAHの生成特性も実験結果とよい相関が得られた。
 以上、基礎燃焼化学分野の論文を調査し、それを用いて各化学種に関する速度方程式とエネルギー方程式を組み合わせ、系の温度、圧力及び各化学種の濃度履歴を算出した。さらに、NO、PAHの生成量、さらに圧力履歴を実験結果と比較した結果良い一致が得られたことから、このような計算手法は妥当であり、今後もエンジンの燃焼特性、有害排出物質の生成特性を調査する上で有用であると判断される。