表題番号:1999A-170 日付:2002/02/25
研究課題イオウ及びスズラジカルの付加反応を用いる合成反応の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 多田 愈
研究成果概要
 トリフェニルスズコバロキシムはスズーコバルト間にシグマ結合を有する特異な有機金属化合物である。この金属間結合はきわめて弱く、熱や光照射によって容易に解裂してスズラジカルおよびコバロキシムラジカルを与える。ここで生成したスズラジカルはハロゲン化物からアルキルラジカルを発生させたり、アセチレン結合に付加して、ビニルラジカルを発生させることが出来る。これらのラジカル種は反応系中にコバルトラジカルと共存しており、その影響を受けることが考えられる。
 本研究ではトリフェニルスズコバロキシムを4-オキサー6-エンー1-イン、4-トシルアザー6-エンー1-イン、5-オキサー7-エンー1-イン、5,7-ヂオキサー1-オクチン等と反応させ、中間に生成するビニルラジカルがどのような反応挙動を示すかを検討した。反応様式は光反応と熱反応では異なり、光照射条件下では中間体ビニルラジカルはさらに分子内オレフィンに対してタンデム環化反応を起こし、コバロキシムラジカルによる水素引き抜きによって環化したオレフィンを与えた一方、熱反応下ではアセチレンの末端水素がトリフェニルスズ基で置換された生成物のみが得られ、ラジカル環化反応はまったく見られなかった。
 反応機構について検討した結果、光反応がトリフェニルスズラジカルの付加によって起こるのに対して、熱反応はコバロキシムからエンーイン類への一電子移動を伴って起こることが明らかとなった。これはコバロキシムの低い酸化電位に基づくものと考えられ、スズーコバルト混合金属錯体の特異な性質として興味深いものである。