表題番号:1999A-169 日付:2002/02/25
研究課題新奇層状物質の計算物質設計
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 武田 京三郎
研究成果概要
π共役層状化合物の計算物質探索:
π共役III-VI族層状化合物の(構造に基づく)π電子状態の擬縮退性と(構成原子種による)π電子供与・授与性を用い、交換相互作用に基づくHund則を利用したスピン多重項状態を理論的に検討した。本系ではπ電子供与性原子(VI族)での強い電子相関が交換相互作用に勝るため、低スピン状態が安定となることが理論的に明らかとなった。さらにこの交換相互作用と相関相互作用がπ電子の局在性によることに注目し、構成原子をIII-VI-V族の三元系に拡張した。その結果、VI族原子の不対π電子はドナーとアクセプターの役割を同時に果たす(donacceptor)ため、π電子の相関が働いても交換相互作用による安定化により、系は高スピン状態を呈する可能性が理論的に初めて示唆された。
結晶転位の第一原理電子論:
格子不整合を有する半導体エピタキシー成長過程を、連続媒体近似に基づく現象論的自由エネルギー計算(巨視的描像)とミスフィット転位芯を含む第一原理電子構造計算(微視的描像)により検討を行った。これら二つの描像を組み合わせることにより、従来数値特定化が不能であった転位芯形成エネルギーばかりでなく成長界面での実効的弾性定数をも算出する方法の定式化に成功した。この方法をInAs/GaAs(110)およびGaSb/GaAs(0001)面でのエピタキシー成長に適用し、発生するミスフィット転位の電子構造と原子構造とともに、転位芯形成エネルギーと成長界面での実効的弾性定数を算出し、前者においてSKモード成長が支配的となる事、および後者ではFMモードが支配的となることを理論的に明らかにした。
蛋白質ナノチューブの電子論:
アミノ酸残基数の異なる複数の多角ペプチド員環の単一状態での最安定構造を第一原理電子状態計算により理論的に決定した。その結果、従来にないペプチド平面が構成されること明らかとなった。その形成機構が、π電子の広がりに伴うエネルギー安定化と環内の水素結合(HB)からなることを電子論を用いて理論的に明らかにした。さらに重要なことはN-H結合方向がspσ結合性の形成により分子面垂直方向に配向し、複数のペプチド員環が会合した時、自発的積層化の主因になることを初めて理論的に明らかにした。