表題番号:1999A-165 日付:2002/02/25
研究課題酸応力環境下におけるGFRP織物積層板のき裂進展挙動
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 川田 宏之
研究成果概要
 塩酸応力環境下におけるGFRP織物積層板のき裂進展挙動及び下限界特性の解明を目的に研究を行った。本年度は新たに母材樹脂中への水溶液溶質の拡散現象を考慮した。拡散モデルを構築し、構成基材に依存しない統一的な破壊機構の提案を試みた。
 応力腐食割れ試験において、耐食性に優れたガラス繊維及び樹脂を構成基材としたCガラス/ビニルエステル積層板(C/VE)と従来のEガラス/エポキシ積層板(E/Epoxy)とを用い、き裂進展挙動及び下限界特性の環境依存性を明らかにした。E/Epoxy試験片では、塩酸温度上昇よりも塩酸濃度上昇の影響を大きく受けKⅠSCCが低下する。また、濃度上昇が直接関係する水素イオンの影響を顕著に受けているため、破壊機構は水素イオン拡散及びそれに伴う繊維腐食が支配的であると考えられた。一方、C/VE試験片において、塩酸環境下のき裂進展挙動は空気中よりは大きく促進されているが純水環境下と比較してもあまり大きな変化が見られない。すなわち、耐酸性の高いCガラスを用いた試験片においては、水素イオンの拡散による繊維の劣化よりも、水溶液(主に水)の拡散吸着によるき裂先端近傍の樹脂の吸水膨張等による繊維荷重分担率増加に伴う繊維破断による破壊が支配的である事が示唆された。
 拡散現象について、母材中の水素イオン拡散がき裂進展に及ぼす影響を明らかにするため、ひずみエネルギ依存の拡散係数及び化学ポテンシャル勾配による拡散方程式を用いた2次元拡散シミュレーションを行った。その結果、外力の負荷により無負荷の時には見られない、き裂先方での高濃度領域が現れた。応力拡大係数の増大に伴いこの領域が顕著に拡大されることを確認し、この領域の拡大がき裂進展挙動に大きく影響を及ぼしていることがわかった。