表題番号:1999A-162 日付:2002/02/25
研究課題言語変化の構造分析:『さ入れ』現象にみる使役構文の敬語構造について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 片田 房
研究成果概要
 近年国内で幅広い層の注目を集めた日本語における言語変化(「ら抜き」、「さ入れ」など)の是非をめぐる論議は、文化庁第20期国語審議会の審議経過報告『新しい時代に応じた国語施策について』により、"平明、的確で、美しく、豊かな言葉"の重要性を指摘する教育的・社会的見地から「少なくとも公式な場での使用は控えたい」というひとつの規範的な方向性が示された。本研究では、敬語表現の一変遷とみられる「さ入れ」現象に焦点をあて、規範的解釈を超えて言語の本質的な機能・構造を模索する学問分野の視点から、次の2点を明らかにした。
(1)使役構文が敬意度を高める文法上のメカニズムについて:
使役の"主体-客体"という文法上の階層関係が敬意表現に関わっている。
(2)「さ入れ」現象の深層構造と「さ」が入ることの文法的意味について:
「さ入れ」が発生する母体の深層構造は二重使役構造になっており、この二重使役構造は「さ入れ」によって表層上に明確に現われてくること。
以上の研究成果は、1999年8月、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)にて開催された国際歴史言語学会第14回大会にて発表し、形態論が許容する抽象度の問題等についての示唆をも含むものであることを確認した。これは、すでに先行展開した「ら抜き」の構造分析結果がフィンランド語等にも通じる普遍性の高いものであることを確認したのに続き、当初期待した成果を超える発見であった。また、1999年11月には香港大学の言語学リサーチ・セミナーにて、当研究成果である表層上の観察からは見えてこない言語変化の機能的側面についての招待講演を行なった。これらの成果を統合し、言語変化に反映される文法体系についての考察をさらに遂行していく予定である。