表題番号:1999A-146 日付:2003/05/01
研究課題日本語生成的辞典作成に関連する意味的境界領域の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学部 専任講師 益子 真由美
研究成果概要
 当初は英語の中間動詞等のように、他動詞と考えられるものが自動詞のように使われている例のみ考察する予定であった。しかし、本来自動詞と見なされてきた動詞が格助詞『を』を伴った一見目的語のように思われる名詞句と共起し、その結果他動詞のように使われている例も見られることから、これらについても研究の対象にすることにした。
 全般的にいって、これらの『誤用』例を文法的かつ受容可能なものと見なすかどうかについては、かなりの個人差が見られた。試験的な調査の結果、実際に自分で発話したり他人が発話している時にはそのまま聞き流していても、改めて文法性の判断を求めると非文法的と答える者が多いことも分かった。自他の区別については、実際は書面でよりも口頭での方が境界線上というか、誤用であるのか、そうではなく意図的に使われているのか明らかでない例が多く見られた。書面の場合でも、恐らく熟慮の上で書かれた書籍よりも雑誌や折り込みチラシ、また書面と口頭の中間とも考えられるテレビ・ラジオ等で放送された台本に基づくと考えられるドラマの台詞、ナレーション、ニュース原稿、CM、等により多く見られた。
 概して自動詞を使う場合に問題とされているのは動作(action)や変化(change)そのものではなく、結果として現れた状態であるということである。これは英語のmediopassiveの場合も同じである。本来他動詞でないものがそのように使われる場合は、特に動作に焦点が置かれるのではなく、目的語のように使われる名詞句に言及する必要があり、なおかつ他動詞で表されるものとは異なった意味を表す必要があるときである。また、格助詞『が』と共起し、普通文頭に現れる名詞句の指すものは、その文脈の中で話者が特に突出している(salient)と見なしたものであると考えられる。このような文脈に関わる現象と文法的な制約の軋轢がどのように解決され、発話として実現されるのか、また所謂格助詞の本当の機能は何であるのかが、今後の研究課題として残った。