表題番号:1999A-135 日付:2002/02/25
研究課題社会システムと自己
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学部 教授 桜井 洋
研究成果概要
 昨年度は「社会システムと自己」と題する特定課題研究を行った。それによって、「自己の現象学」と題する、以下のような研究計画がまとまった。自己は近代の西欧哲学の中心的な概念であった。とりわけ、自己が世界あるいは環境を認識・判断・実践する際の確実性(明証性)の確保あるいは基礎付けが、デカルトからフッサールに至る西欧哲学の中心課題であった。この核心から他者問題などが派生する。だが20世紀に入り、社会学、システム科学、生命科学の発展により、自己概念はその複雑性を飛躍的に増したのである。古典的な西欧哲学が人間の意識に固有とした様々な認識の構造は、少なくとも生命系に普遍的な現象であると考えられるようになった。現時点において発想される自己の理論は、こうした現代の諸科学の成果を踏まえたものでなければならない。今後数年で完成する予定の「自己の現象学」は、こうした問題意識から出発するものである。まず西欧哲学における自己概念の特殊歴史的な性格を、主としてキリスト教文化と関連されて考察する。さらに、システム進化の見地からすれば、その思想が相当限定されたものであることを述べる。システム進化の見地からすると、人間の意識に固有の特性は自己維持ではなく自己超越であることを示す。自己超越系という見地から、現象学の基本的概念(志向性、経験など)を再構成する。さらにその具体的な応用として、産業社会と現代社会の比較を、自己維持系と自己超越系の関係として行う。
 この研究は3年程度をめどとして行われるものである。単行本として刊行する予定であるので、それに至るまでの部分を論文にまとめることには困難があるかも知れない。昨年度の成果は、2000年度中に論文として発表する予定である。