表題番号:1999A-120 日付:2002/02/25
研究課題メタファーとしての学力
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 椎名 乾平
研究成果概要
 本研究は、日常言語として定義があいまいなまま用いられている「学力」概念をとりあげ、この概念がどのようなものとして取り上げられているか、すなわち、素朴な「学力」観を検討することを目的とした。日本の学校教育では、「学力」という概念が頻繁に用いられているにも関わらず、使用される文脈によって、あるいはそれを使用する人によって、その意味が変化しているように見受けられる。「学力」の理念的側面は教育学的研究が蓄積されているが、日常言語としての「学力」はあまり検討されていないように見受けられる。このような理由から、日常語としての素朴「学力」観の特性を明らかにすることを試みた。
 日常用いられる抽象概念の多くがメタファー的思考により支えられており、言語使用にその一端が現れるとする認知意味論者の主張に準じ、「学力」とともに用いられる言語表現の特徴を検討する方法を用いた。言語表現の収集のために、1)現職教員を対象とした聞き取り調査、2)教員免許取得見込み者を対象とした自由記述調査を実施した。収集された言語表現を意味ユニット単位で分析・整理し、近年、学習指導要領などで提唱されている「新しい学力観」「生きる力」との関連から、素朴学力観について考察を加えた。現職教員への聞き取りの結果から、現職教員にとって「新しい学力観」「生きる力」は従来から考えられており、その理念自体には特に感銘を受けておらずスローガンとしても有効に機能していないこと、興味・関心・態度を評価に組み込むことには少なからぬ者が否定的であることが明らかになった。教員免許取得見込み者の自由記述からは、自律的成長を重視する「植物」観、基礎からの積み重ねを重視する建築物観、やる気等を重視するエネルギー観等が混在して「学力」を捉えていることが明らかになった。
 今後、教員への聞き取りや自由記述による調査を続行し、どのような文脈で素朴「学力」観のどの側面が特に重視されるのかを検討することが課題である。