表題番号:1999A-109 日付:2002/02/25
研究課題ロシアにおける文明化の過程-ロシアの中の<東>とはなにか-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 川崎 浹
研究成果概要
 西欧圏とアジアの中間にあるロシアの文明化という文脈の中で、ひとまずロシアが西欧の文化をどう消化し、自己独自のものにしてきたかを考察し、焦点をフランスの CONTEと呼ばれる文学ジャンルの一つに絞った。18世紀半ばにロシアの貴族社会はCONTEを輸入して後、これを自分たちの笑いの環境と伝統の中でロシア独自のジャンルとして、呼称も内容も形式も異なるанекдот(アネクドート)を創出した。
 18世紀末から19世紀初めにかけてアネクドートは、「ニュース性」をもち、「思いがけない」「短い物語」で 、歴史上の逸話や著名人の人物像を取りあげた。しかも倫理的な傾向すらあった。18世紀前半宮廷に仕える道化(шут)はポルトガルやイタリアから連れてこられたが、やがてロシア人の有名な道化たちが登場し、自前のアネクドートを披露するようになる。アネクドート創作者の国籍にしろ、アネクドートに登場する人物たちの言動にしろ、そこにはロシア独自の文明、西欧とは異なるロシアの中のオリエント的要素の表出が見られる。
 以上の研究を基点として、今年は「文明化過程におけるロシア」からさらに進んで「文明的視点から見たロシア」への考察に移りたい。具体的な文献の列挙や考察の展望については、ここで触れる余裕がないが、研究の一歩を刻むことができたと確信している。