表題番号:1999A-108 日付:2003/04/03
研究課題多雪地における林床生常緑低木5種の越冬戦略に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 伊野 良夫
研究成果概要
 本州の日本海側は冬期に多量の積雪があり、標高が低くても場所によっては4ヵ月間以上の積雪期がある。このような地域のササの生育しないブナ林にユキツバキ、ヒメアオキ、エゾユズリハ、ハイイヌガヤ、ハイイヌツゲなどの常緑低木が生育している。これらは、現在、雪の少ない地域に分布するそれぞれの近縁種から、日本海が形成された後に多雪環境に適応して分化したものと推測される。4ヵ月以上の0℃、暗黒の環境下でどのように生きているのか、雪に埋没する前後の状況がどのようかは環境適応という面から興味ある現象である。また、進化的に多雪環境への適応様式が一つなのか、複数のタイプが存在するのかも興味ある問題である。本研究では上記5種を新潟県松代町で毎月採取し、実験室で齢別の葉、茎(材と樹皮)、地下茎、根に分けて凍結乾燥、粉砕し、バイオケミカルアナライザーで澱粉、スクロース、グルコース量を測定した。また、炭水化物の消長を決める光合成、呼吸活性も測定した。いずれの種も、雪に埋れる前に炭水化物含有率は著しく上昇した。エゾユズリハを除く4種は高含有率のまま、雪解け時をむかえた。それらの呼吸活性は積雪期間には低く抑制されていた。持ち越された貯蔵物質は雪解け後の成長に使用されると推測された。エゾユズリハは積雪期間に貯蔵物質の含有率は低下した。これは積雪期間に呼吸活性が大きかったためと考えられる。エゾユズリハは雪解け後の光合成活性が他種より高く、その産物を成長の基礎物質としていると推測した。雪に埋もれる前に、翌春の成長に備えて炭水化物を貯蔵することが適応のひとつのパターンと考えられる。しかし、エゾユズリハは積雪期間に呼吸を低下させず、貯蔵炭水化物を使ってしまう。積雪期の高い呼吸が遺産なのか、何か目的のあってのものなのか不明である。他4種に見られない雪解け後の高い光合成能力と関連ある現象とも推測される。