表題番号:1999A-084 日付:2002/02/25
研究課題自由論の文脈からする日本人の『生きがい』
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 和田 修一
研究成果概要
 「生きがい」という日本語のもつ意味的特性について、わが国における自由主義的理念の社会化という文脈に焦点を当てて、社会学の見地から考察した。その際、次の諸点に注目した。①1960~70年代の戦後日本では「生きがいブーム」が生まれていること。その生きがいブームが生まれるきっかけには、行政の「生きがい施策」(一種の福祉政策)の影響を指摘することができるが、そのブーム以降、生きがいという日本語が極めて大衆的なことばになったといってよいだろう。②日本人は、だれでもが生きがいということばの意味を理解し、かつ生きがいを持つことが自らの人生において価値あることだということを諒解していること。しかも、(今日の)生きがいの語義からして、何を生きがいとするかは個人の主体的な自由選択に委ねられていると理解されていることである。③日本語の生きがいということばは、『太平記』の中に用例が見出されるごとく、比較的古いことばであること。④生きがいの語義を歴史的に辿って検討するとき、そこには「ある個人の人生の(社会的な)価値」(意味A)と「個人の生きる張り合い(を感じる対象)」(意味B)という意味上の2つの中心点が含まれていること。以上の諸点である。
 本研究から明らかにされたことは以下のごとくである。(a)日本語の生きがいは、明治以前と以降において、大きな意味的変換(Aの意味のみを有することばから、Bの意味を主たる意味とすることばへの変換)を経ていること。(b)生きがいの意味的変化は日本人の思考様式において大きな変化が生じた結果であると思われること。何故ならば、この意味的変化が生じたという歴史的事実は、Bの意味内容を表現する必要性が日本人の意識の中に新たに生じたことを推察させるからである。そして、この日本人の意識の変化は、日本社会の近代化過程の中で行われた西洋思想の移植に伴う日本人の個人意識の昂揚を背景にした価値観の変化なのである。