表題番号:1999A-075 日付:2002/02/25
研究課題ヌ-ヴェル・ヴァーグによるルネ・クレール論
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 武田 潔
研究成果概要
 本研究は私がかねてから取り組んでいる、フランスの映画監督ルネ・クレールに関する評価の変遷を辿る試みの一環をなすものである。今回は、戦前からフランスを代表する映画作家として世界的な名声を博していたクレールが、1950年代以降、特に「ヌーヴェル・ヴァーグ」と称される新しい世代の映画批評家=映画作家たちによって、古い権威の象徴として攻撃されるに至った局面を取り上げた。両者は、その映画観の内に先鋭な"自己反省的"意識が認められる点で、本来ならば連帯しえたと思われるにもかかわらず、映画史の転換期における特殊な状況のもとで、そうした共感に基づく出会いは遂に果たされなかった。
 そのような"不幸"の実相を明らかにすべく、国内で入手できる当時の批評資料を可能な限り収集した上で、99年夏にはごく短期間ながらパリの「アルスナル図書館(フランス国立図書館芸能部門)」に赴き、そこに収蔵されている「ルネ・クレール資料」の中の関係資料を調査した。また、同時にパリ郊外の「ボワ・ダルシー・フィルム・アーカイヴ」で、日本では未公開のクレールの最晩年の作品(いずれも公開時には若い世代の批評家たちから酷評された)を研究試写により鑑賞した。
 これらの資料の検討を通じて、戦後のフランス映画のみならず、世界の映画に多大な影響を与えたヌーヴェル・ヴァーグが、その革新的な映画観と映画作法によって映画文化の新たな地平を切り開く一方で、「作家主義」に伴う過度の戦略性や、集団的感化によるある種の抑圧などから、遂に"同時代"の言説の枠組みを越ええなかったさまが明らかとなった。そうした事実が現代の我々に突き付ける問題も含め、今回の研究の成果は、既に別記の論文にまとめて発表している。