表題番号:1999A-070 日付:2002/02/25
研究課題アイヌ民族史の研究(5)
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 菊池 徹夫
研究成果概要
 私は、95年度の特定課題「アイヌ民族の研究(1)」で提示した基本戦略に基づきつつ研究を継続し、96年度の研究(2)では主としてオホーツク文化について、97年度の研究(3)では擦文文化に関して問題点の整理を行った。さらに98年度(4)においては、これら先行する土器文化と後の近世アイヌ文化との比較を行い、これら両土器文化と、いよいよそののち列島北部に立ち現れる、いわゆる近世アイヌ文化との系統関係についての検討にとりくんだ。
 基本的には、考古学的データに拠りつつ旧石器時代以降、続縄文期を経てオホーツク文化・擦文文化を中心に近世アイヌ文化期まで時代を下り、いっぽう、文献に拠りつつ、逆に近世から中世を経て古代蝦夷世界へと遡行してみた。もちろん、言語、民族、地理、人類学など関連諸学の成果も吟味した。
 そして99年度(5)では、その結果について再吟味しつつ、なお詳細な検討を続けるいっぽう、放送大学99年度テキストその他下記文献、あるいは各種学会・シンポジウム・講演等を通じて、こうした研究成果をなるべく広く公開し、それ自体の点検・評価に努めた。ここでは詳述を避けるが、いずれにせよ、最後の土器文化たる擦文文化が終焉を迎える13世紀から、確かな文献資料の現れる15世紀までの間、即ち、14世紀を中心とする時代こそが、この北日本の地域では重要な鍵となる時期であること、そして、最近ようやく懸命の調査・研究の進展によって、たとえば千歳市美々8遺跡を初めとして、こうしたヒアタスを埋め、中世北日本の姿を垣間見せるような考古資料が明らかにされ始めていること、それによって、ようやくアイヌ民族の形成や、いわゆる近世アイヌ文化の成立の問題について、かなりの程度説得性をもつ仮説が提出できる段階になった。
 折しも、97年の「アイヌ新法」の成立を機に、札幌に「財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構」(理事長:佐々木高明)が設立されたが、その中に今年度新たに発足した「アイヌに関する研究体制検討委員会」に私も委員として参加することとなった。この特定課題によって進めてきた一連のアイヌ史の研究成果を、法律、言語、民俗、および行政などの専門家との論議を通じ、また、全国の小・中学校教師用指導資料の執筆・制作によって、アイヌ民族の伝統文化の正しい理解、保存・進行の方途を探り、現実のアイヌの人々に関する知識の普及を計って、国民全体、特に生徒・児童のいわれのない差別の払拭のために生かすことができるのは、うれしいことである。かかる研究を可能ならしめた本助成費の交付に対し、改めて深甚の謝意を表する。