表題番号:1999A-065 日付:2002/02/25
研究課題カジミール・マレーヴィチの抽象芸術
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 大石 雅彦
研究成果概要
 本年度は、予定している著作の第3章「スプレマチズムへ/からの生成変化」のうち、Ⅲ)「立体未来主義」Ⅳ)「スプレマチズム」Ⅴ)「ポストスプレマチズム」、第4章「思想としてのスプレマチズム」のうちⅠ)「『4次元』の問題系」をかきあげました。
 Ⅲ)「立体未来主義」では、キュビスムとイタリア未来派の影響のもとにどのようにマレーヴィチのスタイルが形成されたのかを考察しました。二つのスタイルのメタスタイルとしてできた超理性的リアリズム、アロギズムが速度と新しい幾何学にもとづく革新的なスタイルであることが明らかになりました。
 Ⅳ)「スプレマチズム」では、従来あまり注目されてこなかったスプレマチズムの段階的形成をおってみました。「白地の上の黒い正方形」から白いスプレマチズムまでをおうなかで明らかになったのは、潜勢的相、現勢的相、可能相、現実相といった4つの相が複合的にかさなりながら絵画テクストが構成されていることです。
 Ⅴ)「ポストスプレマチズム」では、今まで社会主義リアリズムに屈したスタイルとされてきたものが、実は社会主義リアリズムのシミュラークルであることを明らかにしました。それとあわせて、1928年以降の印象主義的作品、立体未来主義的作品が1910年代のスタイルのシミュレーションであることも立証しました。
 Ⅰ)「『4次元』の問題系」では、1910年代にアヴァンギャルド芸術に大きな影響をあたえた4次元思想について論じました。ここで問題としている「4次元」は相対性理論にいう4次元連続体ではなく、非ユークリッド幾何学、n-次元幾何学、神秘主義等をもとに成立したものです。スプレマチズムの誕生にさいして4次元思想は大きな役割をはたしました。ただし、4次元思想は1919年以後相対性理論の浸透とともに変化します。この変化がマレーヴィチに及ぼした影響にも言及しました。