表題番号:1999A-063 日付:2002/02/25
研究課題空中写真の解析等による真国川流域の復原研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 海老澤 衷
研究成果概要
 真国川は和歌山県の北部を流れる紀ノ川の支流である。高野山の西に位置するかつらぎ町天野に端を発し、西南に流れて、貴志川に合流し、やがて紀ノ川に至る。この真国川流域に、平安時代から鎌倉時代にかけて石清水八幡宮領で、のちに高野山領となった紀伊国鞆淵荘が存在する。この荘園は荘民の活発な政治活動などできわめて著名である。しかし、どのような水源によって水田を灌漑していたかなど、具体的な開発行為はほとんど明らかにされてこなかった。そこで、荘園関係の文献資料と1945年以降に米軍および国土地理院が撮影した空中写真を照合することによって、現在では変化・消滅した真国川の水利施設を復原し、荘園時代の水田の状況を明らかにすることとなった。
 特に従来の研究で、真国川に存在し、文献資料上重要な位置にある「柳瀬湯」については現地調査によってその水路を部分的に確認することができたが、肝心の真国川本流にかかる井堰については既に流失して不明であった。そこで立体視鏡を使用して空中写真で探査したところその位置と形状を明確に確認することができ、「まぼろしの柳瀬湯」の復原に成功した。また、現況では山林化している棚田についても過去の状況を復原することができた。その他、鞆淵地域には、真国川にかかる井堰としてウシロブチ井堰・大湯・湯ノ本溝・中野北溝・中野南溝・マエカワ溝・宮前湯・オノイデ・坊の堰・太鼓渕堰・鳥渕井などの灌漑施設があり、これらについても空中写真による探査により様々な発見があった。これらの成果については、『紀伊国鞆淵荘地域総合調査 本編』(平成10~平成11年度科学研究費補助金基盤研究C2報告書、課題番号10610336)の「特論 中山間地域の荘園における本流灌漑と支流灌漑」に掲載した。荘園復原研究では、空中写真による調査が大きな成果を収めることを証明した一事例であるといえよう。