表題番号:1999A-051 日付:2002/02/25
研究課題フランス・モダニズム研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 谷 昌親
研究成果概要
 フランスのモダニズムをテーマに取上げて研究したわけだが、その成果のひとつは、シュルレアリスムに参加した作家であり、民族学者でもあったミシェル・レリスの主著のひとつ『オランピアの頸のリボン』の翻訳を上梓し、その「訳者あとがき」においてモダニズムの問題をこれまでよりも一歩踏み込んで論じたことだろう。実際、レリスにとってもモダニズムは重要であり、『オランピアの頸のリボン』のなかでも繰り返しこの問題を論じているが、これを、彼がやはり注目する presenceや細部の問題と関連づけることで、モダニズムを論じるうえでのひとつのハースペクティヴが得られたように思う。この「訳者あとがき」での議論を土台にして、さらにフランスの雑誌のために、今度はレリスの美術論を前面に立て、同種の問題を扱ったレリス論をフランス語で執筆した(雑誌の発刊時期はいまのところ2001年の予定)。
 また、レリスが参加したシュルレアリスム、さらにそれに先立つダダといった前衛芸術運動についても当然ながら研究を進めているが、とくにダダとの関係では、パリばかりでなく、バルセロナやニューヨークにおいてもダダの先駆的な役割を演じたアルチュール・クラヴァンに注目しつつ、20世紀初頭から第一次世界大戦あたりまでの時代を浮彫りにし、この時代に活躍したさまざまな芸術家の活動も再検討しているが、近いうちに一冊にまとめる予定で、すでに3分の2あたりまで書き進めてある。
 一方、こうしたモダニズムの動きを現代思想の視点からとらえなおす作業も不可欠であり、そのため昨年度は、ポスト・モダニズム的状況を端的に示すクレオールの問題を、デリダ、ドゥルーズ、グリッサンといった思想家・作家の言語観・文化観をとおして検討する試みもおこなった。こうした基礎的でもありながら、研究の全体に発展的な広がりをもたらす思想の確認によって、モダニズムをめぐる問題がより明確になってくるものと考えられる。