表題番号:1999A-050 日付:2002/02/25
研究課題日本における仏典受容(4)-貞慶と後鳥羽院-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 助教授 N・グュルベルク
研究成果概要
 今回の研究は、まだ翻刻されていないのみならず、その存在さえ殆ど知られていない貞慶作『中宗報恩講式』が、中心となった。『中宗報恩講式』は、正治年間(1201-2)、貞慶が後鳥羽院に対して法相宗の教えを講義した際に、製作した講式である。この講式は、貞慶作の講式の中でも非常に専門性の高いものであると同時に、テキストそのものも長くて、貞慶の思想を解明する為には絶好の資料となる。特に、この講式を後鳥羽院の為に書いたことに重大な意味がある。
 『中宗報恩講式』の意義は、一方では文化史的な側面から追究できるし、もう一方では仏教史の上からも追究できる。
 文化史から見ると、『中宗報恩講式』が成立した水無瀬離宮は、後鳥羽院の優雅な遊び(歌合わせ、舞、朗詠、晩餐会など)の場というイメージばかりが強いが、『中宗報恩講式』の御前講が行なわれたことを考えると、難解な仏教教理が説かれる学問の場という一面ももっていたことが判る。
 中世法相宗の歴史から見れば、『中宗報恩講式』は優れた入門書ともいえるであろう。後に凝然が著わした『八宗綱要』の中の法相宗に関する説明が、構造上はよく似ている。凝然は、貞慶を、戒律の復興に力を潅いだ先輩として尊敬していたので、直接『中宗報恩講式』を知っていた可能性もある。
 今回は、伝本の中の一つを所有している龍谷大学図書館より翻刻許可が出た為、分析の結果と共にテキストを学会に紹介することができた。