表題番号:1999A-041 日付:2002/02/25
研究課題二十世紀言語と表象の限界状況の研究(レトリスムとアール・ブリュット)
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 塚原 史
研究成果概要
 二十世紀の言語と表象の実験に目を向けるとき、その限界状況ともいうべき場所に位置するのがレトリスム(文字主義)とアール・ブリュット(生の芸術)の試みである。すなわち前者はダダによる言語と意味の切断をさらに推し進めて、語ではなく文字のレベルにまで言語表現を解体した運動であり、また後者はいわゆる「アウトサイダー」(「精神的障害者」として施設に収容された人々)のさまざまな芸術活動を積極的に評価しようとした運動であった。本研究は、まずレトリスムについての歴史的再検討から始まり、その創始者であったイジドール・イズーとダダの創始者トリスタン・ツァラ(ともにルーマニア出身)の影響関係を実証的にあきらかにすることができた。ついで、モーリス・ルメートルら現在も活動中のレトリストの仕事に注目し、彼らが文字をまず音声単位として、つぎにイメージ(図像)そのものとして用いた過程に接近した。また、アール・ブリュットに関しては、「正常」と「異常」という因襲的な二項対立を越えて「異常」が「正常」の「異常さ」を暴くという逆説を、当事者たちの作品やその最初の理解者であったジャン・デュビュッフェの仕事から導くことができた。本研究は国内における作業のほか、海外(フランス、スイス、イタリア)での資料収集および研究者との意見交換をつうじてなされたが、その最初の成果は、『信濃毎日新聞』に1999年1月から2000年3月まで毎週寄稿した連載「反逆する美学」に逐次報告することができた。また、セゾン美術館主催のセゾン・アート・プログラム(1999年7月)でも、途中経過を発表することができた。また2000年秋に刊行された著書『人間はなぜ非人間的になれるのか』(ちくま新書)に研究成果の一部を反映させることができた。