表題番号:1999A-039 日付:2002/02/25
研究課題宗教法人制度に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 棚村政行
研究成果概要
 本研究において、アメリカでの宗教団体法制の現状を調査した結果、アメリカの法制度の特色として以下の諸点が明らかになった。まず、アメリカでは、バージニア州、ウエスト・バージニア州のように、宗教団体に法人格を付与することを禁止する宗教法人否認型の州が3州ほどある。ついで、ニューヨーク州、カリフォルニア州、アラスカ州などのように、宗教法人を規制するための固有法をおく宗教法人固有規制型の州が存在している。宗教法人固有規制型は、現在約15州を数えている。そして、模範非営利法人法の影響を受けて、宗教法人を非営利法人の一種として規制していくタイプの非営利法人規制型の州は30数州と最も多く、3分の2を占めていた。
 第2に、アメリカには、宗教や宗教団体を専門的かつ集中的に扱う行政機関は存在しない。日本のような宗教法人についての所轄庁、文化庁の宗務課といった権限の一括集中型宗務行政ではなかった。つまり、宗教団体の法人格付与や設立、登録は、州務長官が行い、活動内容や法令違背などの限定的調査、規制は、司法長官、免税資格の審査については課税庁、認証取消、行政的解散は州務長官など、それぞれの行政部門が独自の権限において責任を厳しく果たす、権限分散型システムであった。日本でも、今後、権限分散型システムのメリットを部分的に導入する必要があろう。
 第3に、アメリカでは、聖俗分離原則に立って、世俗的部分での宗教団体の特別扱いは原則として認めない。宗教団体の固有の宗教的側面や霊的存在に対しては介入はしないが、世俗的側面での必要最小限の法規制は行う。入り口である設立や法人格の付与は準則主義に近く緩やかであるが、目的逸脱、法令違反、財産や経理の不正利用等に対しては規制が行われ、司法長官や州務長官による強制解散、役員の解任、行政的解散などで、出口は厳格にチェックされていた。
 第4に、宗教団体については、自律的内部規制を原則とし、例外的に他律的外部規制を導入している。つまり、アメリカでは、自律的内部規制として、構成員や役員には、法人の記録や会員名簿、財務書類等へのアクセス権を認め、構成員らによる主体的内部的チェック機能を重視し、裁判所への代表訴訟の提起など監督是正権の付与による民主的統制に期待していた。そして、もし、自律的内部規制が有効に働かないときに備えて、司法長官らによる他律的外部規制や限定的監視機能を発動させる仕組みになっていた。また、伝統的教派では、上部包括団体による各個教会への内部統制が行われ、法人設立についても、その許可や承認を要求するなど、内部的監督統制権を前提とした規制が行われていた。以上から、分離型をとるアメリカでの宗教法人法制は、決して「ノン・サポート、ノン・コントロール」「自由放任主義」「不介入主義」の法制ではないことが明らかであり、今後、日本でもこれを参考にして、宗教法人の自律的内部チェックの機構をどのように整備するかを具体的に検討してゆくことにしたい。