表題番号:1999A-038 日付:2002/02/25
研究課題当事者主義刑事訴訟法の現代的課題
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 田口 守一
研究成果概要
 本研究は、刑事訴訟における当事者主義の研究は時代の課題であるとの問題意識のもとに、被疑者・被告人の積極的人権保障の意義や犯罪被害者・市民等の刑事司法への関わりを研究しようとするものである。そのために、外国法の研究を企画したが、外国法については文献収集とその研究がなお継続中であり、まだ活字化されていない。ただ、これらの研究を背景として、日本法に関する各論的研究はいくつか進めることができた。
 第1に、当事者主義を支える者は、なんと言っても弁護人であるが、今日における刑事弁護についてはその基礎的な研究が欠落しているとの問題意識から、「刑事弁護の現代的課題」と題する論文を、「現代刑事法」の創刊号に寄稿した。おりしも、司法制度改革審議会においても法曹人口の増加が議論され、また被疑者の国選弁護人制度の実現も政治日程に上がっている。このように、弁護人の活動領域が広がってくると、その活動準則もより明らかにされなければならない。ところが、従来、刑事弁護の基礎理論は、私見によれば、余りに貧弱であった。そのために、これからの刑事弁護にとって有益な基礎理論を提供する必要があるとの視座から本論文を執筆した。
 第2に、昨年の刑法学会東京部会で報告した「刑事司法への市民参加と訴訟理論」を活字化した。この問題も司法制度改革審議会における重要な問題点とされており、とくに従来ともすれば「陪審制度論」が中心として議論されてきたのに対して、「参審制度論」を研究する必要があるとの視座から執筆したが、このような問題提起は今日の司法改革論議にとって有益なものと信じている。
 第3に、現在国会に上程されている少年法改正案につき、「少年審判への検察官・付添人の関与」という論文を執筆した。少年審判制度の改正問題も、広い意味での刑事司法における当事者主義理念の定着問題の一部とみることができる。そのような観点からすると、国会に上程されている改正案にはなお検討すべき問題点が残っていることを指摘した。伝えられるところによると(4月27日現在)、この少年法改正案は今国会では廃案となる見通しとのことであるが、さらに検討を重ねてよりよい改正案を上程すべきであると考えている。
 第4に、刑事訴訟における当事者主義にとって基本的な問題である弁護人の権限について、重要な判例が出されたので、この判例について研究した。証拠に対する同意権は本来は被告人の権利であるところ、弁護人はその包括的代理権を根拠として証拠に同意しているのが実務であるが、事件を否認している被告人につき、弁護人が勝手に同意してもよいものかという基本問題である。この問題についても従来厳密な理論的検討がなされないで今日に至っているが、これも刑事弁護の基礎理論の欠落の一場面ととらえ、問題点を分析した。