表題番号:1999A-026 日付:2003/05/23
研究課題相続準拠法の研究-中国・台湾、韓国・北朝鮮を中心に-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 木棚 照一
研究成果概要
 在日韓国・朝鮮人、在日中国・台湾人に関する相続問題については、これまでわが国で最も多く生じた渉外的法律問題のひとつであるのに、国際私法の観点から本格的にこの問題に取り組んだものは殆どみられない。わが国際私法の主要法源である法例は、26条で相続は被相続人の本国法による旨を定める1ヶ条を置くに過ぎない。したがって、わが国における渉外的相続問題には、原則として被相続人の本国法が適用されることになるが、本研究では、これらの諸国が国際法的な意味での分裂国家ではないとしても、経済・社会体制、法体制を異にする分断国家であることから、本国法の決定がどのような基準によって行われるべきかを考察し、また、反致(法例32条)、公序(法例33条)、先決問題など国際私法の総論的法技術がどのようにかかわってくるかを検討した。同時に、大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と中華人民共和国・中華民国(台湾)でどのように異なるかをも常に注目するように心がけた。国際私法的には、被相続人の本国法が北朝鮮法とされる場合には、北朝鮮の1995年対外民事関係法45条によって不動産相続については所在地法によることとされ、動産相続は被相続人の本国法によるとされているが、外国に住所を有する公民については住所地法によるとされているので、日本に永住する北朝鮮人の日本に所在する財産の相続は日本法に反致され、日本民法が適用される。また、被相続人の本国法が中国法とされる場合にも、1986年民法通則149条によって、動産相続については被相続人の死亡当時の住所地法により、不動産相続については、所在地法によるので、在日中国人の日本に所在する財産の相続は日本法に反致され、日本民法によればよいことになる。しかし、すべての問題が日本法に反致されるわけではなく、先決問題としての相続人の身分関係については、本国法が適用されることがある点は注意を要する。被相続人の本国法が韓国法や台湾法とされた場合には、反致は生じない。実質法的には、①相続人、②相続分・遺留分・寄与分、③相続財産の範囲、④遺産債務の清算、⑤相続人不存在の財産に分けてこれらの国の法を内容的に比較検討した。同時に、先決問題として問題となる、夫婦や親子関係の成立に関する法も同じように比較法的に特徴的な点を明らかにした。これらの検討を通じて民族的同一性・近似性と経済社会体制上の同一性・近似性が複雑に交錯することを明らかにするとともに、実務上も在日韓国・朝鮮人、在日中国・台湾人の相続問題の解決に役立つような指針を示すことに努めたつもりである。