表題番号:1999A-020 日付:2002/02/25
研究課題ドイツの親子法の研究―親の権利と子の福祉―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 岩志 和一郎
研究成果概要
 99年度は、ドイツにおける親と子の面接交渉に関する判例の研究と、人工生殖補助技術で生まれてきた子の身分関係をめぐる法的諸問題を検討した。
1 親と子の面接交渉に関する研究について
 1998年にドイツ親子法が改正され、親と子の間の面接交渉が親の権利であると同時に、子の権利でもあると民法典中に明示されてから、下級審ながら徐々に裁判例が現れてきた。本年は、それらの判例をインターネットをも利用して遅滞なく収集することにつとめ、24件の新規定下での裁判例を確認することができた。それらは、大別して、家庭裁判所における面接交渉の取り決めに関する事案、父母以外の第三者との面接交渉に関する事案、面接交渉の排除、制限に関する事案に分けることができる。家庭裁判所における取り決めに関する事案では、基本的には父母に面接交渉のあり方を決定する権限があるという基本的立場を尊重しつつ、取り決めが遅延し、事実上子が父母の間で不安定な立場に置かれることを避ける必要があるとして、子の福祉を優先させるものがある。この点は、第三者(祖父母や兄弟姉妹)との面接交渉についても同様であり、子の福祉が判断基準となることを強調するが、同時に基本的には小家族が憲法上の保護を受けるとし、濫用的請求を厳しく排除する姿勢が見られたのは、大いに注目される。面接交渉の排除や制限については、改正前からの実務と実質的には大差はないが、親の監護を剥奪された父母に対する面接交渉の制限は基本的に子の福祉にかなうとする裁判例があり、数少ない先例として注目される。これら裁判例を引き続き収集検討することで、ドイツの裁判実務が考える子の権利、親の権利の内容が具体的になるであろう。
2 人工生殖補助技術で生まれてきた子の身分関係について。
 1998年の改正の中で、一部立法され、一部立法が見送られた人工生殖補助技術で生まれた子の身分関係を中心とする研究は、すでに前年の段階において、これまでの判例・学説の検討を終えている。本年は、それをまとめる作業を行い、日本学術会議の依頼を受けて、その一部を「人工的生殖補助技術利用の法的規制をめぐって」(学術会議叢書1号「生殖医療と生命倫理」)として発表し、また厚生省の科学審議会先端医療技術評価部会・人工生殖補助技術に関する専門委員会では参考意見を陳述したほか、第10回生命倫理学会のワークショップで発表した。また、全体的なまとめとして、「生殖補助技術に対するドイツの対応」(「Bioethics 医学の進歩と医の倫理」産婦人科の世界2000春季増大号)を執筆、発表した。今後、子の自己の血統を知る権利のより深化した検討など、残された検討課題に取り組みたいと考える。