表題番号:1999A-016 日付:2002/02/25
研究課題技術者の労働移動と雇用慣行の日米比較
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 助教授 村上 由紀子
研究成果概要
 本研究ではアメリカのR&Dに携わる技術者と日本のそれらとの転職率を比較し、なぜ日米の差が生じるのかについて、雇用慣行や労働市場の観点から考察した。研究の手法は文献研究とヒアリング調査であるが、アメリカについては特に転職率の高いシリコンバレーに立地する企業を対象とした。その結果以下の結論が導かれた。
①アメリカは企業間の報酬格差が大きいので、より高い収入を求めた自発的な転職が起りやすい。報酬格差は特に、企業間でストックオプションの価値に大きな開きがあるために生じる。日本では所得の中心は月次給与と賞与であるが、これらに関する大企業間の格差は小さく、技術者の転職のインセンテイブにはなりにくい。
②アメリカでは技術者個人の市場賃金が存在する。それを調査する会社も存在する。個人をベースにした成果型賃金制度やそのための評価システムが整備されていることも転職を容易にする条件である。
③アメリカでは個人に割当られる仕事の守備範囲が狭く明確であり、また、権限と責任の範囲が明確であるため、外部経験を持つ技術者を中途採用しやすい。また、技術者自身も転職しやすい。これに対し日本では、広い守備範囲をカバーできる能力や統合された知識が求められ、企業間の守備範囲の違いから生じる熟練の企業特殊性が存在するため、アメリカよりも転職しづらい環境である。
④日本の大企業の場合は周辺的な作業から中心的な作業へキャリアアップしていく道が企業内に用意されているが、シリコンバレーでは、多数の小規模企業が特定の開発分野に特化しているため、キャリアアップの道が企業外に開かれている。
⑤シリコンバレーでは、多くのハイテク関連企業が集積しているため、技術者にとっては転居せずして転職する機会が豊富に存在する。また、技術者間でのインフォーマルなネットワークがあり、転職情報も入手しやすいことが転職を容易にしている。
⑥アメリカの場合は即戦力となる一人前の技術者を採用する方針であり、一人前になるために外部教育機関が使われる。これに対して日本の場合は企業内で能力開発が行われ、これは長期雇用を前提としていると同時に長期雇用を促す要因でもある。
 今年度中に雑誌論文として発表する予定である。