表題番号:1999A-009 日付:2002/02/25
研究課題マルクスの経済理論に於る計算経済学的特徴
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 藤森 賴明
研究成果概要
 本研究では、Marxの経済理論に含まれている次の2点に付いて、その計算理論的特徴を明らかにした。
 (1)難解と云われる価値形態論に於て、Marxは貨幣の誕生に到る過程を明らかにしようとした。Marx理論の難解さはその商品同士の関係を明らかにする場合の等号の使用法にある。即ち、Marxの議論では等号が2様の異なる意味で使用されており、一つは代入等号(assignment)、他は比較等号(unification)の意味で使用されている。この区別を明確にすることにより、価値形態論は明解になる。
 (2)商品評価の基礎になる価格は、Marxの場合には市場価格ではない。Marxは市場価格が不断に変動するもので有るが故に、分析の記述手段として適当ではないと考えたものと云える。また、Marxの分析は最初から方程式の体系で表現されるという性質のものではない。誰も神の如く事前に方程式を解いて経済行動を行なう訳では無いからである。
 Marxは均衡価格として、利潤率均等の生産価格を考えたが、その価格水準の確立していく過程を繰り返し計算の方式で定式化した(転化理論)。近年の研究では、収束した先の均衡解の存在の側面に偏って評価されているが、Marxの方法は収束する繰り返し計算であるから、むしろ算法としての完結性を重視すべきである。ここでのMarxの方法は、素朴な冪乗法による固有値の計算であるが、この点に関連して注目すべきは、その収束速度の速さである。つまり、現実的な側面として、生産価格は多くの経済主体にとって観察が容易な価格比率を与えると云える。
 また、生産価格は、資本なり企業の側が要求利潤率を設定して繰り返し再計算する場合と、労働側が賃金率を設定して再計算する場合との計算量や計算時間の比較は興味有る点である。