表題番号:1998B-518 日付:2002/02/25
研究課題考古学資料のX線分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 宇田 応之
(連携研究者) 理工学部 助教授 西本 真一
研究成果概要
 20年ほど前まではエジプト、ギリシャをはじめ多くの国々で、研究のためなら考古学資料を当事国から国外(日本を含む)に持ち出すこともできた。しかし、最近では、考古学資料はその国の重要な財産との観点から、多くの国々で、それらを国外に持ち出すことを禁止している。そこで、当研究グループは発想を変え、資料を日本に持ち帰るのではなくて、測定器を考古学資料のある現地に持ち込むことにした。今回は特定課題研究の助成金を利用させていただき、スリランカへの一度の調査と一度の測定、エジプトへの二度の測定を実行させていただいた。
 スリランカでの測定対象は、5世紀に描かれたフレスコスタイルの壁画である。この壁画は高温多湿な南国の岩の外壁に描かれていたにもかかわらず、未だ色鮮やかに残っている。その謎を解こうと試みた。
 エジプトでの測定対象は、エジプト(カイロ)博物館に常時陳列されている、12王朝のステラ、18王朝の木棺、19王朝の石碑とクソールにある貴族墓の壁画、ならびに吉村隊が発掘したお墓の中にあった石棺、装飾品、土器などである。これらは、驚くほどその保存状態が良かった。現地に持ち込んだ測定器は、われわれが設計したり、市販のものでも我々自身がそれに改良を加えたものである。1つは可般型X線回折装置であり、もう1つは可般型蛍光X線分析装置である。
 研究成果の詳細は論文を見ていただくとして、特筆すべき点だけをここでは簡単に述べる。4000年前に描かれたエジプトの絵からは、極めて興味深い白色顔料が見つかった。この顔料の鉱物名をハンタイトという。この鉱物はエジプトでは産しない。しかし、この白はとても綺麗なので、エジプトでは3300年の昔から使われていたと言うのがこれまでの定説であった。
 われわれの今回の測定で、この定説は大幅な変更を迫られることになり、その結果古代エジプトとその周辺諸国との交易ルートの見直しも必要となってきた。