表題番号:1998B-013 日付:2002/02/25
研究課題バリの身体文化に見るエスニシティー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 専任講師 杉山 千鶴
(連携研究者) 人間科学部 教授 寒川 恒夫
(連携研究者) 人間科学部 助手 木内 明
研究成果概要
 ここにいう身体文化は、ドイツ語圏において使用されるKörperkulturの訳語であり、運動によって身体養護と身体強化を目指す文化を意味している。従って、その目的を達成するための具体的な身体運動の形態は多岐にわたるが、本研究では舞踊と民族スポーツに限定されている。
 バリ島には数多くの舞踊が伝承されるが、本研究ではケチャが取り上げられた。エスニシティーを論じるために最も都合の好い舞踊と判断されたためである。ケチャは本来、バリ暦の1年の末に村を浄化する目的で行われたサンギャン儀式を母体としたもので、1930年代に、バリ在住でバリの伝統文化保存運動を主導したドイツ人とオランダ人によって、サンギャン儀式(これはサンギャンと称する2人の娘による舞踊託宣と、チャチャと発声する踊り伴奏としての独特のかけ声合唱とからなる)のうち、サンギャンの舞踊託宣をインド伝来のラーマーヤナ系舞踊に置き換え、その伴奏としての合唱は残したもので、従って、もはやサンギャン儀式とは呼べず、行事全体が宗教的文脈から切り離された性格を持つに至った。いわゆる創られた文化としてのケチャの誕生であるが、このケチャに対するバリ島民の対応は、非バリ人のための観光資源としての割り切りであって、それ故に、ストーリーや舞踊技法を含めて演出は伝統に拘束される必要はなく、自由かつ商業ベースに則って展開するとするものである。しかし他方、舞踊によるエスニシティー形成は、ケチャとは別の舞踊に求められ、その伝承が非バリ人を排除した空間で営まれるようになった。バリの先住民バリ・アガ族の民族スポーツ「ムカレカレ」についても、1980年代後半から観光化に伴う同様の変容が進行している。