表題番号:1998A-892 日付:2002/02/25
研究課題痴呆患者の笑い表情の測定と解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 助手 河合 隆史
研究成果概要
 本研究の目的は、痴呆患者の笑い表情の収録を行い、その所見から痴呆の表情に与える影響を検討することである。将来的には、痴呆の非侵襲的な診断などのパラメディカルな応用が期待できる。 笑い表情の収録には、光学結合型の臨場感通信システムを使用した。呈示内容には、ホームビデオで撮影した子供や動物のハプニングや失敗などを、20分程度に編集したものを選択した。痴呆症患者55例を含む66例の入院患者(71.5±23.5才)の表情を測定した。なお、被験者の分類は、長谷川式スコアから判別した。
 笑い表情では、眼裂の上下の収縮、口角の左右の伸長という、一貫した距離変化が見られることから、各特徴点間距離を求めた。笑い始めから笑い形成までの被験者の表情を、等間隔でフレーム抽出し、各被験者の笑い始めの特徴点間距離をベースラインとした変化率に変換した。結果から、痴呆が高度になるほど眼裂の収縮が小さく、左右差が大きくなることが分かった。また、前頭葉、頭頂葉に障害のある方が、眼裂の収縮に左右差が大きくなる傾向が認められた。
 本実験の結果から、痴呆の高度や障害部位の笑い表情に与える影響は、眼裂の収縮の大きさや左右差において顕著であることが分かった。一方、口角の伸長では、痴呆の高度や障害部位による差異は認められなかった。また、本研究を進める上で、非痴呆患者や軽度の痴呆患者に、映像刺激に対して強い興味を持つ場合が多いことが分かった。今後は、被験者数の増加や分析方法の検討に加えて、映像刺激を用いたリハビリシステムへの表情測定機能の付加といった、応用領域の検討も併せて行いたいと考えている。